皆様はリック・スティーブス(Rick
Steves)という旅行テレビ番組のホストをご存じでしょうか。アメリカの公共放送局であるPBS(Public Broadcasting Service)では長年にわたって彼がヨーロッパの国々を隅から隅まで訪ね歩いてまわる「Rick
Steves’ Europe」という長寿人気番組があります。ご覧になられたことがおありの方もいらっしゃるかもしれません。テレビはあまり見ないこの私でも、自然と彼の番組は見入ってしまうほどで、毎回引き込まれてしまいます。恐らく、アメリカ人の多くの方々にこの番組が与える影響力の大きさは計り知れないものがあるのではないかと感じます。
アメリカ人、特に白人の方々にとりましては、ヨーロッパというものはもともと自分たちの遠い先祖が生まれて暮らしてきた国であって、郷愁とあこがれ、そして自分たちのルーツを感じさせるイメージを醸し出してくれる桃源郷だと申し上げられます。もちろん、現実は決してそんなことはないですし、政治上での分断や移民問題などではアメリカとも共通する難しさはいくらでもあると察せられます。しかしながら、このリック・スティーブスのヨーロッパ旅行訪問番組では、普段は決して知られるところのないような辺境にある小さな村に伝わる独特の文化や行事、食べ物などを紹介して地元の人々やその家族との心温まる交流を巧みに描き出してくれています。
私のまわりにいるアメリカ人の友人知人(ほぼ白人)は、リック・スティーブスのヨーロッパの影響をまともに受けて、ヨーロッパ旅行に勇んで出かける人たちばかりです。逆に日本をはじめとするアジアへ関心を示したり、旅行先に選ぶ人は驚くほど少ないというのが偽らざるところです。アジアに出向く方のほとんどは何らかのアジアにルーツがある方々です。昨今の日本ブームならびにインバウンドの記録更新を毎年している日本にお住まいの方々にはなかなかご理解してもらえないかもしれませんが、日本に行かれる白人の方の数はヨーロッパに行かれる方と比べてみるとまだまだ非常に少ないというのが私の印象です。
ただし私の住むオレゴン州のどちらかというとのどかなこの田園地帯では日本人の数自体が極めて少なく、白人の割合が今でも優に80%を超えているという人口動態に依存しているがゆえに、いまだ日本を遠い異国と思い込んでいることは否定できません。それがLAやサンフランシスコ、シアトルといった日本への直行便が毎日飛んでいる大都市においては、恐らくそのようなことはなく、日本に旅行するのはもはや当たり前だという雰囲気がきっと培われているのではないかと伺われます。
そこでもしリック・スティーブスがヨーロッパではなく、日本に彼の旅行番組先をシフトしてくれたならば、恐らくですが、相当数のアメリカ人の日本行き旅行者が劇的に増えるような気がいたします。彼は、すでに70歳を超えていますので、今からヨーロッパに代わって日本に旅先案内を変えるということは望むべくもないことです。それでは誰か彼に代わる新しい日本旅行専門のリック・スティーブスの登場が待たれるところであります。日本はヨーロッパ全体に比べましたら、国土も狭いですし、言語はほぼ日本語に統一できますが、それでも各地に伝わる文化や行事、食べ物そして豊かな方言も独特なものがあります。そうしてみますと、やはり日本に特化したリック・スティーブスの出現を早急に期待してみたいわけです。
昨今日本のテレビ番組やYouTubeなどを見ておりますと、日本各地の方言までも達者に操ることのできる外国人の方が出演して普通の日本人でも知らないことを日本語で丁寧に教えてくれたりしています。そういう方々の中の一人でもリック・スティーブスのヨーロッパに相対して、日本旅行先番組を企画してアメリカの放送局にアプローチしてみたらなんてつい考えてしまうところです。もちろん、そのためには豊富な人脈や資金が必要となりますでしょうし、政治力も求められるかもしれません。かのリック・スティーブスは公共放送番組に出演するだけではなく、自分自身で旅行企画会社をワシントン州にもっていて、そこには100名を越えるスタッフが働いているといいます。つまり、会社を立ち上げて運営していく経営力も当然必要になります。
そもそもリック・スティーブスのヨーロッパの大成功を見ていると、誰か一人ぐらいは日本を紹介するリック・スティーブスがいつ現れてもおかしくないのではないかと思ってしまいます。ひょっとすると私が単に知らないだけで、すでにリック・スティーブス並みの日本の水先案内人が出現しているのかもしれません。ですが、こちらアメリカに住んでいる限りでは、そのような方の存在感はまるで感じられません。ですので、日本はまだまだ遠い極東の片隅にある英語も通じない、いまだよくわからない伝統的で不思議の国というイメージがまずは先入観としてアメリカ人一般の人たちの脳裏を満たしてしまいます。
日本の旅行会社や航空会社などのスポンサー会社をまずは探して取り組んでみるだけの価値は十分あるんじゃないかと私は勝手ながら考えてしまいます。であっても、日本向けリック・スティーブスが登場した暁には、日本はそれこそ国内どこの景勝地に行ってもオーバーツーリズムの弊害を受けるようになっては身もフタもありません。ですが、それはそれで今から試行錯誤を重ねながらも地道に解決できる手はずがきっとあるはずと私などは楽観視しています。リック・スティーブスのヨーロッパばかりに目が向いているアメリカ人に一矢を報いてみたいのです。
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記事執筆:酒井 謙吉
This article written by Ken Sakai
President & CEO
Pacific Dreams, Inc.
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