世界のどこに行っても中国人は、その土地で一族郎党、根を張って商売をして立派に生活を営んでいます。アメリカでは、聞いたこともないような遠く離れた小さな町にも中国人が経営するチャイニーズレストランが1軒ぐらいはあるものです。アメリカの大陸横断鉄道建設工事で線路を敷く工事に携わった労働力の多くは中国人であったといいます。線路工事が終わった後には、中国人は最後に線路を敷いた土地に家族で残って住み着き、中華料理店や雑貨店などを開業しました。ですから、アメリカでは、内陸地の相当辺鄙な地域に行ってもチャイニーズフーズだけには舌鼓を打つことが出来るのです。
10月5日付けの日経新聞の特集記事「世界一人が育つ国日本」についての発案者同士のパネルディスカションの内容が掲載されていました。その中で、三菱ケミカルホールディングの小林善光社長は、「海外で活躍できる人材の育成」というテーマの話の中で「和僑」というコンセプトを打ち出しています。海外に住む日本人が今後増えていけば、将来そのような華僑ならぬ和僑という言葉が出来る時代が来なければいけないと云うのです。これはいたって斬新なコンセプトだと記事を読んでいて思わずハッとしました。ですが、日本人ほど現実問題として「和僑」という存在から遠い民族も世界を見回してみてもそう多くはいないのではないかと思われるほどです。
華僑と呼ばれる中国人は別格としても、ここアメリカで根を張るアジア系の中で、韓国人やフィリピン人、ベトナム人、そしてインド人たちなどは、誠に緊密なネットワークを築いていて、異国でのビジネスや生活の上でそれぞれに助け合っているのを感じます。日本人も戦前からアメリカに移住して当時は移民の模範とも呼ばれていた日系人の方々も戦時中の熾烈な差別政策を生き延びてアメリカの中で堅固に根を張っていらっしゃいますが、他のアジア系に見られるような強固なネットワークと云うのは、特に持っているわけではなく、私の偏見かもしれませんが、個人主義的な傾向がより強いように感じます。
それは、どうも日本人と云う人種は、知らない人たちに対しては仮に同郷の日本から来た人間であっても胸襟を自ら開くのには時間がかかり、そう簡単ではなかったりします。それが日本人の持っている国民性の一部であり、日本の国にいる者同士の間では気が付かないことであるのかもしれません。その意味では、三菱ケミカル社長の小林氏が提唱される「和僑」と云う言葉は残念ながら遠い将来にわたって見てみても決して出てくるような言葉ではないということが自信を持って云えます。海外での日本人は、どう逆立ちしてみたところで、中国人や韓国人のようにはいかないものなのです。
しかも最近では、学生でも海外留学に行こうとする志のある若者は激減しているようですし、企業の中でも海外への駐在は極力避けたいとする傾向が社員の中で蔓延していると聞いています。これでは、日本人の国民性云々以前の問題で、海外に出て行く日本人が今後増えるどころかますます先細りする一方となってしまいます。ただでさえ、世界で最も少子高齢化社会が進み、人口減少時代にすでに突入した日本では、このままいけば、そのうち海外にいる日本人もあわせて世界の稀少人種の仲間入りを余儀なくされるのではないかとさえ私には思えてしまいます。
昔から言われてきたことですが、資源を持たない日本という国が海外の大国と伍して競争に打ち勝つためには、優秀な人材を輩出するしか道はないのだということは、ここのところの中国からのレアアース類の対日輸出規制の問題からも再度日本は認識をあらたにしているのでしょうか。今回の日経新聞の「世界一人が育つ国日本」という特集記事は時宜を得ているように思えますが、その割には、小林氏をはじめとしてその提案発案者のパネルディスカションでのトークは厳しい言い方ですが、あまりに能天気な発言が多いような気がしてなりませんでした。
ただ今後人口が減って日本人が稀少人種になるにつれて、日本人同士の目に見えない団結力がひょっとしたら生まれてくるのかなという、ちょっとした淡い期待感もあります。これは、実際に時間がたってそうなってみないと恐らく分からないことでしょうね。そういう意味での「和僑」であれば、それは海外にいる日本人にとっては、まさに夢の共同体にさえなる可能性は確かにあるのかもしれません。そこまでの意味を込めて三菱ケミカルの小林社長は、あえて「和僑」という言葉を使っていたとしたら、それはもう私としては脱帽するしかないのですがね。
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