
今までにこのブログの中で書いておきたいテーマのひとつについて、今回ようやく腰をすえて書けることになり、少し嬉しい気持ちです。そのテーマとは、オレゴン州が他の州に先駆けて70年代に全米で初めて制定した“UGB”(Urban Growth Boundary)についてです。私がオレゴン州の地に初めて足を入れたのは、今からちょうど30年前になる1980年の今頃(6月)でした。まだ日本の大学4年生(信州大学)であった私は、語学留学生としてオレゴン州の北にあるワシントン州の大学(東ワシントン州立大学)に3ヶ月という短い間での留学期間の最後に、当時ワシントン州東部から長距離バスの乗ってオレゴン州ポートランドに入ったのが、最初のオレゴン訪問でした。
そのときは、ワシントン州スポケーン市から夜行のグレイハウンドバスに乗り込んでポートランドに向けて出発しました。スポケーンを南下し、コロンビア川にかかる橋を渡るとそこは、もうオレゴン州でした。州間高速道路であるI-84号線を西に向かい始めると、空の方は夜明けの兆しを帯び始め、明るさがどんどん増していったことを昨日のように思い出します。アメリカで初めての長距離バス旅行で知ったのは、アメリカという国は、町と町との間には、人家さえない広大な原野と農作地帯とがただ漠としてあるだけなのだなという感慨でした。日本でもし同じようなバス旅行に出たとしたら、町と町の間に人家は少なくなるにしても人家がまったく途切れて久しいような景色と時間と云うのは、北海道の一部でも行かない限り、ほとんど経験できないことではないかと思います。
ところがアメリカ、特にこちらオレゴン州やワシントン州では、それがまったく当たり前で、町と町の間には、本当に何もありませんし、人家もほとんどないに等しい広大な空間だけが寂寥感を醸し出すように存在しています。アメリカは、確かその国土が日本の約21倍ありますから、町と町の間は、何もないのが当然とばかりに当時から私も考えていましたが、どうもそれはただただ国土が広いからというだけが理由ではないということを数年前に知りました。それは、日本から取材で訪れた新聞社の方をお連れして、ポートランドを中心として州政府機関やメトロ(Metro)という広域地方政府機関などに通訳として同行させていただいた機会があったからです。
その政府関係者との取材同行で初めて知ったのは、“UGB”という聞きなれない略語でした。UGBとは、Urban Growth Boundaryのことで、日本語にあえて訳してみると、「都市成長境界線」となります。UGBとは、簡単に言えば、開発可能地域とそうではない地域とを明確に線引きする行政上の政策で、オレゴン州政府がポートランド市を含む各自治体(3郡・24市)にその線引きを義務付けたのが、始まりであるされています。そのUGB拡張の線引きを行い、広域的土地利用計画を立て、その計画に則って都市開発を行政面で管理運営しているのが、先ほど申し上げましたポートランドにあるメトロという地方自治体なのです。
3つの郡、24の市が集まって形成されるこのメトロというような地方自治体は、アメリカでも前例がないようでして、地元住民による選挙でメトロの首長が選出され、独自の議会を持ち、独自の地方税を徴収し、独自の自治憲章までやはり住民投票で採択されているほどです。メトロと各市との間で、UGBの拡大や運用については、かなり厳格な規制が引かれていて、勝手にUGBの境界線を広げたり、拡大解釈をしてUGB圏外での開発を行ったりすることなどは、基本的に許されてはいません。ですからUGBがらみで、許可なく開発が始まるような場合には、市やメトロが、開発業者に対して率先して訴訟を起こしたり、行政処分を下したりすることがあります。
メトロは、1990年代に50年後のポートランド周辺における土地利用計画を試行する「2040プラン」を策定して以来、全米でも著名な存在となりました。その2040プランの中でも中心に据えられているのが、このUGBで、UGBの政策を維持していくことによって、ポートランド周辺が、50年後にますます都市部の中心地に人口や住宅、そして就業地が集中するコンパクト・シティ形成を実現していくことを目指すものとなっています。そして公共交通志向型の開発(これを英語で、TOD:Transit-Oriented Development と呼びます)をさらに見込んでいて、郊外に人口や住宅地が拡大し続けるアメリカの典型的なスプロール化現象とは、相反する地域開発計画として、全米の中でも注目され続けています。
これらプランに現れているのは、クルマ社会のアメリカにあっては、脱クルマ社会の実現を将来の目標とする年季の入った息の長い地域開発計画であり、90年代終わりごろから「アメリカで最も住みやすい都市」としての名声を築き上げてきたオレゴン州のポートランド市とその周辺地域の長期的な取り組みなのです。その取り組みやさまざまな活動を通して、ニュー・アーバニズム(New Urbanism)という言葉が生まれています。ニュー・アーバニズムとは、UGBを政策上の核にして、郊外に発展し続けてきたアメリカの都市づくりに一石を投じ、新たな街づくりや町おこしの指針となるような21世紀型の都市計画運動であると申し上げられるのです。
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