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先日セミナーとコンサルティングの仕事でカリフォルニアのオレンジカウンティまで行ってきました。今回のセミナーは、私の妻であるアイリーンが行うアメリカ人向け日本文化理解のセミナー:”Building Bridges Between the USA and Japan”でありましたので、非常に珍しいのですが、二人で出張をしました。お客様は、現地にある日系企業様でありましたので、セミナー終了後の夕食時には、近くの日本食レストランに日本人の皆様方と自然に繰り出していました。

セミナーも終わり、後はホテルに戻って眠るだけということもあって、このときは、私も妻も普段は決して飲まないほどのお酒の量を楽しませていただきました。話題がどこから出たのか定かではないのですが、会食中に妻の先祖の話になりまして、私の妻の旧姓(英語は、”Maiden Name”といいます)は、実はフォスター(Foster)といいまして、遠く先祖を遡ってまいりますと、アメリカの作曲家として有名なスティーブン・フォスターに行き当たります。

先祖に著名な作曲家を持っているせいか、確かに妻の一家は今でもかなりの音楽一家であり、妻もソプラノの声楽はかなりのもので、またフルートの演奏も相当な腕前をキープしています。娘もバイオリンを小学生から始め、中学・高校とさらに大学のオーケストラでも第一バイオリンを弾いています。まあ、それはともかくとして、このフォスターの作曲した“故郷の人々”という唄をそのときいたレストランにいたアメリカ人のお客さんたちとで大合唱することになりました。

故郷の人々という唄は、別名“スワニー河”という名前でもよく知られていて、恐らく多くの日本人の人たちは、小学校か中学の音楽の時間で歌わせられたことがおありだったのではないかと思います。ちょうどこの曲は、本来日本の唱歌でありますあの「ふるさと」に匹敵するアメリカの国民的な唱歌であったはずなのですが、1980年初頭あたりからアメリカでは、このフォスターの唄がほとんど歌われない、あるいは完全にフォスターのことを忘れ去ろうとする風潮が現れたことを皆様はご存知でしょうか。

その理由として、フォスターの作曲した唄の多くは、1800年代中ごろのアメリカ南部の風情を描いたものが多く、当然そこには当時奴隷としてコットンフィールドなどのプランテーションで使われていた黒人に対しても多くの描写が含まれているのです。しかしながら、私の知る限りでは、フォスターは黒人に対して温かい眼を持って接しており、魂に響く言葉を歌詞に使っていたにもかかわらず、たまたま彼が歌詞の中で使ったそれらの言葉が、今では黒人を差別する差別用語の典型となってしまっているため、フォスターの唄は人種差別の唄であるという烙印を悲しいことにも現代アメリカの中においては押されてしまったのです。

そのため、私の妻も妻の家族も自分たちは、かつては“アメリカの作曲家の父”とまで言われたフォスターの末裔などとは、他人に対して誰も言わなくなってしまった次第なのです。そのようなことを何となく聞いて知っていましたので、私も自分から進んでアメリカ人との間では、祖先の作曲家フォスターについては何も言わずにきました。そしてアメリカ人の誰しもがもう遠い昔にフォスターのことや彼の作った唄のほとんどすべてをすでに遠い忘却の彼方に押しやってしまったものとばかり思い込んでいました。

ところが、先日のカリフォルニアでの日本食レストランで、ご一緒した日本人で30代後半のエンジニアの方がこのフォスターの「故郷の人々」の歌詞を妻から英語で教えてもらい、それをカラオケではなく、ご自分で歌い始めたのです。そうしましたら、レストランにいる他のお客さんも一緒になってこの「故郷の人々」を歌い出すではありませんか。日本食レストランといっても来られているお客さんは私たち日本人を除けばあとはすべて現地のアメリカ人の方々ばかりでした。

隣のテーブルに座っていらっしゃったちょうど私たちと同年輩かもう少し年上の感じのよさそうな中年ご夫妻にフォスターの唄をよくお知りなんですねと尋ねてみましたところ、本当に何十年も聞いたこともなかったけれど、これは私たちアメリカ人の心の唄なので、今日この日本食レストランにきて、フォスターの唄を歌えて、涙が出たといって、固い握手を私たちと交わしてくれたのでした。

そうか、やはり私たちぐらいの歳のアメリカ人にとってはフォスターの唄は、心の唄、故郷の歌、そしてノスタルジーに溢れた遠い過去を蘇らせてくれる唄なのだなと認識を新たにすることができ、私たちも感激に浸ることが出来ました。フォスターの唄を通じて、見ず知らずのアメリカ人たちとこんなに深いところで一体感を共有することができるなんて。フォスターの末裔に生まれた妻もその夜は大変誇らしげに見えました。




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