本当に久し振りに再開して書いた先月(9月)号の異文化トーク(http://pacificdreamsincusa.blog.jp/archives/7148860.html)で執筆テーマのヒントをいただいた、パリにある名門大学院INSEAD 客員教授で、アメリカミネソタ州出身のエリン・マイヤーさんによる著書「異文化理解力」 (原題は、”The  Culture Map” – Breaking through the Invisible Boundaries of Global Business” で、日本語翻訳版は英治出版より発行) から自分自身の失敗談を重ね合わせながら今月号も引用を試みてみたいと思います。

 

 

エリンさんがオランダで働いていたときの話で、韓国出身で普段は物静かなクァンという40代前半の男性が同僚として彼女と一緒に仕事をしていていたときのことです。しばらくしてクァンに対する他のオランダ人の同僚からの不満の声が多く寄せられていたことを彼女は知り、驚いたといいます。怪訝に感じたエリンさんはクァン自身から説明を受けて彼が陥っていた状況を理解することができ、合点がいったのだそうです。このエピソードは異文化の中で働く人間にとっては大変示唆に富んだ実例になるのではないかと察せられますので、今回皆さんにご紹介させていただきたいと思います。

 

 

彼がオランダに赴任してはじめにわかったことは、オランダ人の持つ文化が韓国人の持つ文化とはきわめて対照的だということで、コミュニケーションの仕方は大変直接的であり、それはたとえばネガティブフィードバックを相手から伝えられる際にも遭遇するといいます。直接的なネガティブフィードバックをあからさまに伝えることをあまり好まない韓国人の自分たちからすると最初オランダ人はなんて無礼で傲慢なのだと驚いたといいます。そこでオランダに移住してから久しい韓国人の友人に相談してみると、この問題に対処するには自分自身がオランダ人にあわせて振る舞うしかないというようなアドバイスを受けたのだそうです。そこでそれ以来、彼はオランダ人のように直接的になることを日々心がけているというのです。

 

 

しかしながらその結果はとても残念なもので、クァンの試みは明らかに行き過ぎてしまい、直接的なオランダ人からしても彼はものすごく攻撃的で怒りっぽいので、一緒に働きたくないという不満がオランダ人の同僚皆から出てきているという訳です。彼は、それぞれの文化が持つ、適切と不適切の微妙な境界線を引く勘所が理解できず、的外れな行動を起こしていたことになります。彼がアドバイスを受けて自分がオランダの文化に順応しようと試みてきたことが日常的にすべて裏目に出てしまったといえる悲惨な状況を作り出してしまいました。

 

 

そういえばその昔、私も日本の本社からアメリカの子会社に赴任してからまもなくは、周りにいるアグレッシブなアメリカ人の同僚に馬鹿にされないようにと、あえて自分をアグレッシブに仕立てるような言動をとっていたときが一時期ありました。結果として、今振り返ってみればアメリカ人の同僚たちとの良好な関係を築くのにより長い時間を要してしまい、逆に非生産的であったと思います。エリンさんのこの著書を読んで自分でも当時のことを思い返しながらそのときの失敗が初めて心底合点がいった次第です。

 

 

これらの教訓としていえることは、本来自分たちの持つ文化よりも直接的なコミュニケーションをとる文化の人々と一緒に仕事をするときは、彼ら彼女らの持つ文化の真似をしてはならないということだと思います。直接的なネガティブフィードバックが自分に寄せられた場合であっても、彼らには自分を攻撃するというような意図でそれを行っているのではないと受け止めてみるべきだとエリンさんは忠告してくれています。日本人の持つ文化は韓国人の文化よりもさらに直接的ではない文化ではないかと考えられますので、やはり海外に出ていったとき、その地にいる人たちと一緒に仕事をする際には、同じ轍を踏むことがないよう、文化の真似は問題を生むリスクになることを十分認識し、注意していただければと思います。

 

 

 

 

酒井 謙吉

President & CEO

Pacific Dreams, Inc.

kenfsakai@pacificdreams.org

www.pacificdreams.org



異文化トーク10-2020