アメリカに来て早や28年がたち、いやおうなしに英語には基本的に毎日のように接してきた28年間でしたが、それで英語がネイティブ並みに上達したかといいますと、自分ではきわめて心もとないところを感じてしまいます。インターネットのおかげで、どこにいてもネットとさえつながっていれば、好きなときに日本語でニュースが読めたり、放送を楽しんだりすることができるので、英語に接することなく生活していくことができなくもありません。実際に伝統的に日本人の街として知られる、LA郊外のGardena Torrance にいらっしゃる日本人の方々は日常的に日本語で何でも済ませることができるので、いつまで住んでいても英語がうまくならないとおっしゃっておりました。まさにそれは大いに納得してしまうところです。

 
 

自分の経験を通じてみても、アメリカに来て最初の3年間ほどはとにかくアメリカ人の話している英語をとにかく聞き取ろうと死に物狂いで聞き耳を立てて話を聞き、たどたどしくも自分で英作文を頭の中で組み立てて話をしようとします。それが3年たつと、努力してもそれ以上には英語が上達しない領域に入り込んでしまうせいか、英語に対して以前ほど努力をしようとはせず、相手の話す英語がさほど分かってもいないのにわかった振りをするのがやたら上手になります。そういう状態が20年ぐらい自分の中でも続いてきたのではないかと思います。そして今いる心境というのは、おかげさまでヒヤリング能力だけは随分とシェイプアップされたきたようで、話を聞いていると意味不明であったり、今までに聞いたこともないような単語や表現が耳にガンガン飛び込んできたりします。それらをいまだにいちいち電子辞書で引いたり、アメリカ人の妻に尋ねたりして単語力や表現力を増やそうと、それこそ若くもない脳味噌にやたら負荷をかけたりしています。


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繰り返しますが、28年もアメリカに住んでいながら、ほぼ毎日のように聞いたことのない単語やイディオムにいまだ遭遇し続けています。恐らくアメリカに来た最初の日からそういった単語や英語表現に接してきていたはずだったのですが、最初の20年ぐらいはただ単純に私の耳が英語を聞き取っていなかっただけなのだと最近ようやく悟れるようになりました。もちろん、仕事柄、28年前の英会話と現在使っている英語とでは専門分野もレベルもまったく違っておりますし、年齢に応じたより複雑な会話内容になってきているということは間違いなく申し上げることができるかと思います。それでも私の28年間の英語上達度は非常に緩やかなカーブを描いてきておりまして、年々そのカーブの上昇具合は限りなく平坦な角度に収束しつつあるのが現実です。

 
 

私の拙い経験から申し上げますと、日本人の英語習得上での難しさというのは、難しい意味の単語や英語表現を身につけるというのではなく、むしろその反対の簡単な英語と前置詞との組み合わせであったり、何でもない普通の言葉が持っている別の意味(ときには日本で出されているどんな辞書にも載っていない)で使われていたりするときに、得てして混乱を招き、すっかり英語への自信をなくしたりします。例えば、”Wipe” という動詞。通常「拭(ふ)く」という意味で使われますが、この動詞、文法上は他動詞なので、前置詞を伴います。一番日常的に使われる例としたら、「テーブルを拭く」という言い方があります。これは、I wipe down the table. といえばよいのですが、日本語にはない前置詞というものが付きまとうわけです。それで、これをついうっかり、I wipe out the table. といってしまったら、「テーブルを(ばらばらにして)壊す」という意味になり、家人から怒鳴られることになります。このようにひとつの前置詞を間違って使うことによって、意味がまったく変わってしまうというのが英語の意味深で日本人にとっては複雑なところでもあります。

 
 

仕事柄、日本で出版されている英会話の参考書などをアマゾンなどで垣間見たりしていますが、中には「中学生の教科書英語で話す英会話」あるいは「サルにもわかる英会話」みたいなタイトルの本があったりして、かなりドッキリさせられます。人目につく意味でつけているタイトルであればそれは致し方ないのかもしれませんが、残念ながら中学で使われている教科書の英語レベルでは、アメリカ人の中学生に対してであっても満足する英会話ができるとは到底思えません。ビジネス上でのいろいろなシチュエーションを想定した国際派ビジネスパーソン向けの英会話読本も日本ではCDDVD付きでたくさん出版されていますが、残念ながらあまり役に立っているとは思えません。なぜならば、そのような英会話読本に出てくるシチュエーション通りには実際の会話が立ち行かないからです。人と人との会話というのは決して想定できるものなのではなく、それを無理やり英会話構文を丸覚えさせようとしてみても確かな効果が期待できるはずもありません。

 
 

効果的な英会話習得術はそれではどこを探してみても見つからないものでしょうか。自分としては最近はまってしまっているのが、YouTube 上で無料配信されているTED Talksです。TEDとはTechnology,Entertainment, Design の略で、世界規模での大規模なカンファレンスを毎年開催している非営利団体を意味します。この団体が世界中で開催している2,000本以上の 動画をYouTubeでいつでも見ることができます。TEDTalks で使われている言語はどうも英語だけのようですので、これは英語の聞き取りの勉強には有効だと思います。とりわけいろいろなテーマが話されていますので、ご自分で気になる分野のトークは大いに勉強になるはずです。またトークするプレゼンターも魅力的な人物が多く、英語だけではなく、プレゼンテクニックも何回も見ることによってしっかり盗むことが可能です。ビル・クリントンやGoogleの創立者など世界の著名人の話を見ることができます。ですが、無名に近い人のプレゼンも数多く入っていて、むしろそのような名もなき人たちの話ぶりが心の中に沁み入ったりしてきます。

 
 

あとは月並みではありますが、映画の鑑賞でしょうか。封切りされたばかりの映画を映画館に行って見るのはお金がかかりますので、Netflixを利用して同じDVDを何回も見続けてみることです。やはり動画と結びついて英語を学ぶのが自分にとっては手っ取り早いような気がします。YouTubeや映画を頻繁に見ていれば、それだけで人との話のタネが自然に生まれるようにも思います。そして最後はおっくうがらずに 英語を使って量と質をともなったコミュニケーションを試みるということです。飛行機で隣の座席にアメリカ人が座ったら、必ず ”Howare you, today?” とまずは相手の方と挨拶を交わしてみてください。それはアメリカでの礼儀であり、相手とのコミュニケーションの第一歩です。とにかく英語でのスモールトークから始めてみることです。自分ではわかっているけれども、タイミングを逃すと第一歩がなかなか踏み出せなくなります。コミュニケーションでは何と言ってもタイミングはとても大事ですね。