この週末は妻アイリーンのアメリカ人の親友であるGeriの結婚式が開かれ、私も妻とともに結婚式とその後のレセプションにお供して出席してまいりました。Geriは、妻とは20年来の地元に住む親友で、10年ほど前にご主人を心臓発作で失った後での再婚になります。州政府機関の重職にあるGeriは、出張なども多く、配偶者との死別や離婚後で再婚することの多いアメリカ人としては長らく独り身でもっぱら仕事だけに専念してきたという感じのキャリア中心の女性でした。それが2年前の高校同窓会にたまたま出席したときに、当時同じクラスにいたやはり、数年前に妻を乳癌で亡くした同窓の男性Mikeと再会し、晴れてめでたい挙式の日を迎えたという次第でした。

 
 

1ヶ月ほど前に送られてきたその招待状には、地元のキリスト教のルーテル派教会で執り行われる結婚式のセレモニーとその後のダウンタウンのホテルで開かれるレセプションの案内が記されてありました。特にごく普通の招待状だと受け止められましたが、ひとつそのレセプションでカラオケがあると書かれてありました。結婚式のレセプションでカラオケが行われるというのは日本ではめずらしいことではないのかもしれませんが、アメリカで聞くのは初めてのことでした。Geriがカラオケを趣味にしているということは友人である妻も聞いていませんでしたし、新郎のMikeにそのような趣味があるということもにわかには信じ難いところがありました。

 
 

どのようなカラオケが結婚式のレセプションで展開されるものか、妻も私もキツネにつままれた気持ちでセレモニーとレセプションに臨みました。まずセレモニーで分かったことは、Geriの甥御さんがなかなかの気の利いたミュージシャンで、ギターの弾き語りでラブソングのいくつかをセレモニー中に披露してくれました。そしてセレモニーも滞りなく終わって、レセプションの会場になっているホテルに移動して、ごく普通のレセプションが始まりました。ただし、ひとつだけ違っていたことは、カラオケのDJとおぼしき女性がいらして、各テーブルを事前に回って、曲のリクエストとニックネームを聞いてまわっておりました。DJの女性はベッド・ミドラーを若くした感じの、いかにもアメリカ人女性らしい陽気で元気のよい人でした。 


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私たちのいるテーブルにもまわってこられて、自分が歌える歌をとりあえずリクエストしてみたところ、その歌(Ed Sheeran ”Photograph”)は新し過ぎてまだ載せていないというではありませんか。どうやら、彼女は自分でカラオケのソフト、ならびに選曲をすべてなされているようで、準備されていた機材などはホテルのものではなく、すべて自分のものだと言っておりました。そこがまずは日本のカラオケバーなどとは大きな違いだということがすぐに感じられました。日本のカラオケバーにはご存知のようにモニターがいくつもあって、曲のビデオがバーにいるお客さん全員で共有されるものですが、本レセプションのカラオケは、大きめのモニター1台が用意されていて、歌う人だけがその画面を見て、お客さんにはまったく見えないように置かれています。モニターに映るのも歌詞の文字だけで、特にカラオケビデオになっているわけではありません。

 
 

妻と私のいるテーブルでカラオケの曲を伝えたのは妻と私だけで残り8名いたアメリカ人の方々は自分は今までに一度もカラオケというものをやったことがないといって、異口同音にご辞退されていました。これは私の感触としては十分予想していたことで、特に私たちの年代(50代)のアメリカ人は人前でカラオケを歌うなどということは、かなり恥ずかしいことだと思っているものなのです。ですので、カラオケをする人が妻と私だけで、それ以外にはあまりいないのでないかという心配が脳裏を横切りました。ですが、それはまったくの杞憂で、Geri4人の子供たちと親戚たちが実はアメリカ人としてはめずらしいほどの大変な歌好き、カラオケ好きの一団であったのです。セレモニーで粋な弾き語りをしてくれた甥御さんもその一団であったのは申し上げるまでもありません。ですが、面白いことにGeriMikeもカラオケなどはやったこともないという典型的なアメリカ人でした。

 
 

つまり、レセプションの方は完全にGeriの子供たちが企画していたようで、どうも自分たちがカラオケをやりたかったようです。そしてそのためにプロのカラオケ専門のDJの人に依頼を出して準備万端整えていましたので、自分たちの一団以外がカラオケに参加することはほとんど勘定にしていなかった模様です。ですから、予想に反して次から次へとカラオケをなさる人が続くので、自分たちが歌う番が来るのかどうかさえ、最初は疑心半疑でした。ようやく妻の番が来て、彼女の十八番、サウンドオブミュージックのなかの ”ClimbEvery Mountain” の後で、私の番が回ってきました。曲は名曲 Harry Nilsson ”Without You”。別れの歌でありますので、結婚式のレセプションで歌うにはふさわしくない歌詞の歌ですが、この歌しかとっさに思いつかなかったので、仕方なかったです。ごめんなさい。かく言うこの私も実はアメリカで大勢のアメリカ人の前で英語の歌をカラオケを歌うというのは、初めての経験でした。

 
 

ですが、カラオケ発祥の国出身の身ということで、人前で恥をさらすことは潔しとせず、この名曲の高音部分もより張り上げて目一杯の声量を出し切りましたところ、なんとこれが大好評、全員からの盛大な拍手喝采で歌い終わることが出来ました。その後は、延々と続く家族と親戚一同のカラオケ大会と化して、さらに盛り上がりをみせましたが、カラオケにさほど馴れていない一部の方もいて、日本で日本人がやるほうがもっと全体で会が盛り上がっていたかもしれません。カラオケのよいところは言うまでもないことですが、老若男女関係なく参加できることで、小さな女の子からGeriの叔父さんまで幅広い年齢層で皆が楽しめることにあります。そしてこれはアメリカならではかもしれませんが、DJが途中でダンスを入れたりして場を飽きさせないように工夫してくれたり、ムードのある曲では新郎新婦がダンスに興じたり、それに釣られて私たちもダンスをしたりという和気あいあいな流れが自然と醸し出されておりました。

 
 

アメリカでももっと普通にカラオケが普及してくれば、もともと日本人から比べれば圧倒的に豊かな声量で英語ネイティブのクリアな発音をもってして、星の数ほどある英語の名曲を歌って楽しむことを覚えてくれたら、アメリカのレセプションやパーティでの風景も随分と様変わりすることでしょう。いまは恐らく70%のアメリカ人が恥ずかしがってカラオケには参加しようとしないのではないかと察します。一度でもカラオケを経験していただければ、あとは抵抗は少なくなると思うのですが、その最初の扉を開けるのが容易ではないようです。アメリカのカラオケ市場はいまだ大きなブルーオーシャンが洋々と展望されるチャンスが広がっています。

 
 

Geriの姪御さんの中にテイラー・スィフト似の恐らく同年代のスレンダーな若く美しい女性がいました。その彼女が歌ってくれたのはやはりテイラー・スィフトの ”YouBelong with Me” で、恐らくアメリカでのカラオケ大会でしか味わえられない感激シーンでした。Geriの叔父さんが歌ってくれたルイ・アームストロングの”What a Wonderful World” も味があって心に染み入りました。またDJ役の女性もカラオケにシャイなアメリカ人を盛り上げるには欠かせない存在だということがわかりました。アメリカでの結婚式レセプションでのカラオケ大会、私にも妻にとっても期待していた以上に忘れ難い一夜となりました。