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ニュースでもご存知だと思いますが、先月7月から今月8月にかけて銃の乱射による惨劇が2件発生しました。ひとつは、コロラド州デンバー郊外にある映画館内、そしてもうひとつは、ウィスコンシン州ミルウォーキー郊外にあるシーク教寺院内でのそれぞれ残虐な乱射事件でした。コロラドでは12人が死亡、58人が負傷、ウィスコンシンでは6人が死亡というこの2つの事件が日をさほどおかずして続けて発生したことに対して、多くのアメリカ人に、そして世界中の人々に大変な衝撃を与えました。アメリカで起こる殺人のほとんどすべては、銃によるもので、我々アメリカに住む日本人であっても、ではどうして銃規制の強化をアメリカ政府は一向に打ち出せないのかという素朴な疑問の念が乱射事件が起こるたびに沸き上がります。

 

コロラドの事件は、6歳の女の子を含む12名もの死亡者が出るというそれは痛ましい惨劇であったのですが、オバマ大統領も共和党のロムニー候補も銃規制強化に関しては現在の時点でも一切口に出していません。それどころか、大統領は「合衆国憲法修正第2条(セカンド・アメンドメント)を信じている」という従来どおりの銃所有を堅持する考えを再び強調する始末です。アメリカ人の銃所有の信仰というのは、この憲法修正第2条に書かれている自衛のために個人が銃を所有する権利を認めている条文に由来しているわけなのですが、それがどうして銃所有の規制強化の話になると大統領までもが一挙にトーンダウンするのか、理解に苦しみます。恐らく、オバマ大統領としては、選挙戦に入ったこの時点で、甚大なる政治的影響力を持つ全米ライフル協会(NRA)を敵にまわしたくないという思慮が当然のことながら深く働いています。

 

過去には、ゴア副大統領が銃規制法案に賛成を表明していたわけですが、NRAがゴア候補を激しく非難し、それが大統領選での僅差で負けた敗因のひとつであったと受け止められています。共和党候補もNRAの支持をとりつけずに大統領選に勝った候補者はいないといわれているため、ロムニー候補も銃規制強化案の制定は支持しないという立場を2つの事件後も明言し続けています。コロラド州では、事件後の銃の売れ行きが伸びているといいます。オバマが大統領に当選した2008年の終わりごろも、オバマが大統領になって銃規制が強化されるだろうとの噂が流れ、全米にある銃砲店はいっせいに「オバマセール」と銘打って銃販売量を一気に伸ばしたことがありました。ですが、オバマの銃規制強化は単なる噂にすぎず、大統領就任1期目で規制強化に乗り出すようなことは一度もなかったわけです。大統領選挙期間中は、”CHANGE” を合言葉にして若者や無党者層から多くの有効票を引き出したオバマですが、大統領就任後でいえば、医療保険改革法を成立させた以外にはこれといった目覚しいCHANGEは残念ながら何もなかったように思います。

 

CBSのニュース番組での報道でしたが、コロラドで乱射を起こした犯人はインターネット上での個人売買で多くの銃器類を買い集めたことを突きとめています。無法地帯でありますインターネットの世界なら、現金欲しさに銃器類をネットで売り出す個人がいて、喜んでキャッシュで応じてくれる買い手に対して、そのような輩は買い手の身元調査などをすることなどありえないわけです。そうすると過去に銃による前科がある人間は、銃砲店では銃は買えないかも知れないけれども、インターネットの個人同士での売り買いでは前科が何ら問題になることはありません。しかも今回のコロラドの乱射に使われた銃器の一部はAK47という戦場で兵士が使用する銃器で、 アメリカの警官が通常携帯している銃よりもはるかに殺傷能力のきわめて高い強力なものであったといいます。なにせ、標準的な防弾チョッキを貫通する能力を持っていたというのですから、武装した警官であってもこれではちょっとやそっとで太刀打ちなどできかねるほどです。

 

現在アメリカ国内だけで約3億丁近くの銃が出回っているといわれています。単純に計算すればアメリカの人口は3億人ちょっとですから国民1人にほぼ1丁の銃が全米中に行き渡っているという勘定になります。日本人から見ると、アメリカ人の家には必ず銃やライフルがあって、人によっては常に銃を携帯しているという風に考えられていらっしゃるかと思います。このような数字を耳にすれば、そのような風評やイメージはさもありなんということになっても仕方ありません。ですが、現実には、アメリカ人といっても銃を持っている人は持っているし、持っていない人は持っていない、そして銃を持っていない人は銃を持っている人よりも多くいるというのが私の25年アメリカで暮らす中での正直な感触です。アンケート調査を取れば、NRAの会員を除けば、アメリカ人も銃規制強化を望んでいる人の声の方が望まない人の声よりも大きく上回っていることが分かっています。

 

大統領選のある年にたまたま2件の乱射事件が立て続けに起こったのかもしれませんが、4年に一度の世界の注目を一手に集める大々的な政治劇が繰り広げられるこれから11月までの季節は、選挙戦の当人たちを含むどちらの党の陣営も銃規制については今後ともしばらくは口をつぐんだ状態だけが続くのではないかと危惧しています。その間にまた新たな乱射事件で犠牲者が出ないことを祈るのみです。先進国にしては、人々の日常の安全をなんでこんな神頼みにでもしてすがっていかなければなれないのか、本当に信じがたいほどの悲惨な状況です。1994年に一度は法案が成立した殺傷能力の高い軍事用銃器類の販売や所有を事実上禁止したブレィディ法は2004年のブッシュの時代に失効となったままの状態が今でも続いています。この国では、銃規制を唱えるほどに一事が万事このような有様なのです。 

 

 

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