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今回の表題、”Random Act of Kindness”、多くの日本人のかたにとっては初めてお聞きになる英語表現かもしれませんね。実は私もそうでした。何となく分かりそうではあるけれども、でも何となく何を意味しているのかよく分からないフレーズです。この英語の意味を知ったのは、YouTubeについ最近流されたばかりの ”Aaron’s Last Wish – A $500 Tip for Pizza”  の映像によってでした。

 

”Aaron”(アーロン) というのは、この77日に30歳の若さで亡くなった(どうも自殺の模様?)ケンタッキー州レキシントン市内に住んでいたAaronCollins のことで、彼は生前に ”Random Act of Kindness” をすることが大好きだったといいます。このRandomAct of Kindness というのは、見ず知らずの人に対して無私無欲でそもそもそんな親切などがほとんど期待されていないような状況の中で人に親切をするといったことを意味しています。

 

アーロンは安レストランで取る食事のチップに食事代以上の例えば$50 という破格のチップ(“Awesome Tip” )をウェイターやウィトレスに渡すというようなことをいつも喜んでやっていました。しかもレストランでのサービスが特によくなかった場合には、彼はよけいにいいチップを置いたといいます。それは、多分そのウェイトレスは、朝からたまたま運のよくない1日を過ごしていたからだろうという彼の憶測からによるものでした。サービスが非常に悪ければ、アメリカ人でもチップを置かないという人さえもいる中で、彼の行為は際立っていたわけです。

 

アメリカではいくつかの州を除いて、そして一部の高級レストランを除外すれば、普通のレストランで働いているウェイターやウィトレスは、法定最低賃金(ミニマムペイ)以下の時給で、その日のチップを最後に全員で分け合って、最低賃金をかろうじてクリアする程度の賃金を確保するしているというのが実情です。昼間は、派遣社員としてのパートタイムの仕事をして、夕方6時になるとウェイトレスの仕事を始めるという2つの仕事を掛け持ちして何とか生計を立てている女性はアメリカのどこの町でも見かけることができます。

 

チップといえば、昔(まだ浮気事件の起こる前の)タイガー・ウッドは大変なケチだったということでつとに有名(?)で、彼のゴルフチームの面々を連れてレストランで食事をしてチップを支払わなかったと噂になったことがありました。恐らくこの噂話には尾ヒレがついていて、安レストランを除いたほとんどのアメリカにあるレストランでは、6名以上のグループで食事をした場合、支払いのチェックには合計金額にチップ相当分(15-18%ぐらい)がすでに上乗せされた形で渡されます。これはレストランがグループ客の人数が多いことで、チップの計算が煩わしくなって10%ぐらいの低いチップしかお客が支払わなかったら困るという意図が働いて慣習的にそうなったのだと聞いています。

 

ですが、有名人になればなるほど、レストラン側が計算して入れたチップとは別に15-18%ぐらいをさらに支払うということがどうも期待されていることのようなのです。タイガー・ウッドはそのことを知っていたのか、それとも知らなかったのかは定かではありませんが、プロのスポーツ選手の中では今も最高峰の収入を稼ぎ出す人間にしては、やはり配慮が足りなかったといわざるをえません。たかがチップの支払いをめぐって彼はケチだというような不名誉な評判がまとわりつくわけですから、アメリカではチップをないがしろにすることはできません。

 

さて、アーロンに話を戻しますと、彼は亡くなる前に3つからなる遺言をしたためていました。その3つ目の遺言というのは、以下のような内容でした。「今度家族みんなで食事に行った時に、そこのウェイターかウェイトレスに、最高のチップを置いていってくれ。25%とかケチなこと言っているんじゃないんだぜ。オレが言ってるのは、ピザを食べて、500ドル置いていけとかいう話なのだからな。」(原文の遺言に書かれてあった英語の文体はこの訳のように、実際かなりぶっきらぼうな口調でした。)うーん、ピザレストランのウェイトレスの女の子にチップを現金で$500というのは、確かに遺言であるとはいえ、普通ちょっと考えられない行為ですね。

 
生前、あまりにも気前のよかったアーロンには、多くの借金が家族などに残っていて、それらをきれいにすると$500どころか、彼のお金はもうほとんど何も残っていませんでした。そこで弟のSeth(セス)は、「亡くなった兄の最期の願いです。見知らぬウェイターやウェイトレスに$500のチップをあげるのを助けてもらえませんか」というウェブサイトと、寄付ができるPayPalのアカウントをオンライン上で設けました。サイト設置後、寄付は瞬く間にして集まり、アーロンが亡くなった3日後の710日に、レキシントンのピザレストランで働くウェイトレスの人に遺言に書かれていた$500のチップを差し上げることができました。
 
その後セスは、このビデオをウェブサイトYouTubeにそれぞれアップして、そのことがあっという間に世界中で知られるようになり、今度はなんと2日間で$10,000が集まりました。そこで、寄付のお金が集まる限り、いろいろな場所で$500のチップをアーロンの名前で渡し続けることをセスをはじめアーロンの家族は決め、彼の遺志を継ぐことにしたのでした。この話はCNNにも取り上げられ、私がこのブログを書いている714日時点ですでに$30,000ドルの寄付が集まったのだそうです。ビデオにはすでに140万回以上ものアクセスがありました。
 

アーロンの遺言で本来1人の人にすればよいはずだったこの ”Random Act of Kindness” が、これから10人になり、さらに100人にもなっていく。いったいこれから、何人の見ず知らずの人がレストランでアーロンの残した無私無欲の親切を受け取ることになるのでしょうか。そしてアーロンの家族は何回、これからもレストランに行ってピザを食べ続けることになるのでしょうか。しかもこのAwesome TipRandom Act of Kindnessは、アメリカ中に広がる気配です。テキサス州ヒューストンのイタリアレストランで16年働いているウェイターの人に匿名のご夫妻が$5,000のキャッシュを手渡したという話が昨日のCNNで伝えられました。アーロンが死んで残したRandom Act of Kindness、間違いなく世界中の人々の心を揺り動かし続けることでしょう。

 

P.S. パシフィック・ドリームズ社のサイトへも是非お越しくださいね。 www.pacificdreams.org