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今月9日にアメリカABCテレビ局 ”Good Morning America” の中で、ニュース番組でアンカー役を務めている黒人女性ジャーナリストのRobin Roberts 氏のインタビィーを受けて大統領選挙戦のためにノースカロライナ州を遊説していたオバマ大統領とのインタビューが放映されました。このインタビューの中でオバマ大統領は、歴代の大統領の誰もが明確な発言を避けてきた経緯のある同性婚についてそれを初めて支持する立場であることを明確に表明しました。二期目の大統領選に向けての微妙なタイミングにあるこの時期にあえてリスクを犯して、やはり非常に微妙な問題についての言及をなぜしなければならなかったのかというのは、多くの憶測を生む結果となって大きな反響をここアメリカではもたらしています。
 
もともとオバマ大統領は、先の2008年の大統領選の当時は同性婚には反対する立場にあることを明らかにしていたものが、大統領就任後しばらくしてから「同性婚に対する考えを進化させるべきだ」との表明に変わってきており、同姓婚に関する大統領の姿勢が微妙に変化していたのは事実でした。しかし、なぜこの選挙戦遊説の最中に、しかも朝の全米ネットワークテレビ局のニュースのインタビューに答える形で同性婚支持を打ち出したのか、という素朴な疑問は残るわけです。
 
この同性婚支持表明によって、当然のことながら共和党支持派である保守層の大きな反発を招くであろうこと、しかし民主党を支持するリベラル派からは大きな歓迎を受けるであろうことは誰の目からしても明確でした。名だたる戦略家であるオバマ大統領は、そんなことは百も承知で支持を伝えたのは、リスクがあるとはいえ、低迷気味であった自身の支持率に対しての均衡を打破するタイムリ―ヒットを最初から狙っていたという推測に説得力があるように思えます。事実、同性婚是認表明後の大統領の全米での支持率はギャラップの世論調査(511日発表)で51%にまで伸び、選挙戦開始後初めて過半数を超えるという効果を生み出しています。
 
同じくギャラップの調査によりますと、全米で同性婚を支持する割合は、大統領の支持表明前後で1%上昇し、表明翌日の510日時点で51%に達したという数字が出されています。この数字を見る限りにおいて、同性婚に関してアメリカではそれを異端視する人間よりも、当然のことだと認める人間の方が上回っているという世論の形成になっていることがわかります。これはアメリカ建国の歴史の経緯を紐解いてみても、世論に画期的な変化がもたらされたといっても過言ではないといえます。
 
それは、アメリカの建国は歴史的に見て、キリスト教への信仰が国家建設の重要な屋台骨になっているというのはゆるぎない事実です。伝統的なキリスト教の教えの中では、同性婚や人工中絶というのは、完全にタブーであり、容認することのできない行為でした。それは、聖書の教えの中で同性愛を否定する記述が何ヶ所かにあって、それがベースとして同性婚も当然のごとくして否定するという信条です。ですが、時代は移り変わりアメリカの世論は明らかに伝統的な教えから今や乖離しつつある段階に入ったということがわかります。
 
現在のアメリカには、ある統計調査によると、900万人がLGBTL:レスビアン、G:ゲイ、B:バイセクシャル、T:トランスジェンダー)であるという結果が出てされています。900万人といえば、アメリカの全人口の3.8%に当たる数字です。これが本当に事実であれば、もはや無視することのできない大きな人口動態の数字であると申せます。私の住むご近所や(妻側の)アメリカ人の親戚、そして私たち家族の友人の中にもLGBTに入る方々が何人もいます。しかしそれらの人たちは、私たちにとっては何ら親戚であることに変わりがあるわけではしませんし、友人関係や近所づきあいに何かヒビが入るようなこともまったくありません。むしろその人たちが雇用や生活の中で差別や軽蔑を受け、人権問題にさらされることの方がはるかに危惧されるべき現実ではないかと思います。
 
これらの事実、そして世論の変化を周到に感知し、計算づくの絶妙な戦略とタイミングとを同時に身立てての今回のオバマ大統領は支持表明を行ったのではなかったかと思います。しかもインタビューが行われたのは、大統領選があるたびに支持政党が揺れ動く、いわゆる“スィング・ステイト”のひとつであるノースカロライナ州であったのも別に偶然の産別でもないでしょう。さらにいえば、経済問題や失業率、財政危機、テロへの軍事費投入などと比べれば、国家の懐具合を一切傷める心配をしなくてもすむ、まさに国民の変化の途上にある新しい信条についての支持表明であり、それが大統領の支持率上昇にも寄与するならば、こんなに費用対効果の高い戦略も自分の持つカードの中でそういくつもあるわけではないでしょう。今回の表明、まさにオバマ大統領にとっては“してやったりの戦略”であったと後から2012年の選挙戦を振り返ってみたとき、政治評論家たちはそのように評価付けされるような気がしてなりません。