イメージ 1

先日、地元の日系企業で弊社から公認TWIトレーナーを派遣して、1週間、月曜日から金曜日まで毎朝午前中を使ってTWI研修を行いました。恐らく、このブログ読者のほとんどの方には”TWI”と聞いてもピンと来る方はおられないのではないかと察します。TWIとは、Training Within Industry から頭文字を取ったもので、もう少し丁寧にいうと、Training Within Industry for Supervisor だと言った方が理解しやすくなると思います。日本語に訳すと、“(監督者のための)企業内教育”という意味になります。(この場合、Industryは、業界というよりは、「企業」という意味として取ります。)SupervisorのところをTeam Leaderに置き換えてもよいでしょう。
 
TWIは、アメリカで生まれ、第二次世界大戦中にアメリカ国内の軍需工場内での女性労働者教育のために幅広く登用され、戦後は日本の自動車産業界に取り入れられて、日本の自動車産業を世界的な産業にまで押し上げた陰の立役者として、効果的に用いられた企業内教育システムです。第二次世界大戦中は、アメリカも日本も戦争のために民間工場を兵器工場へと様変わりさせ、一般民間人を工場労働者に使って、戦場で使われる兵器類の製造に明け暮れたわけです。ここでいう戦時中の一般民間人というのは、戦場に狩り出された多くの男性陣に代わって労働者のほとんどが女性であったわけです。 
 
ところが当時の女性のほとんどというのは、およそ工場というような場所で働いたことなどない、ドライバーやレンチといったツールの類いさえ手にしたことのない超ド素人の集まりでした。そのような未経験者を短期間で教育して、一人前の工場労働者に仕立て上げられるかどうかで、これから来たりくるアメリカの戦果さえ左右しかねない切羽詰った課題でした。そこに導入されたのがまさにこのTWIでした。TWIのシステム立った教育メソッドのおかげで女性ド素人集団は驚くほど短期間の間で、いっぱしのスキルを持った工場労働者に変身を遂げたのです。アメリカはそのおかげで、戦時中世界中のどの国よりも豊富な兵器と軍需物資を最前線に途切れることなく投入し続けることができたといいます。
 
アメリカを筆頭とする連合国の勝利で第二次大戦は幕が閉じられ、その時点で必然的にアメリカにあった軍需工場としてのニーズは、瞬く間に消え去りました。兵器類や軍需物資を製造していた工場は、もとの民間工場に立ち返り、戦後の一般消費財や耐久財の製造にすばやく戻りました。戦後間もない40年代後半から50年代、そして黄金の60年代を迎えるアメリカの産業界は、当時世界で敵なしの一人勝ち状態にありました。ところが日本やドイツは、戦時中の戦禍によって、町も家屋も製造設備もことごとく破壊され、復興の緒についたばかりの段階でした。戦勝国であったイギリスなどヨーロッパの国々もやはり戦禍の影響で、社会資本の再構築からスタートせねばならない状況に置かれていました。
 
そんな状況では、アメリカはTWIなどを再度民間工場に採用せずとも、注文は黙っていても入ってくるし、作ればいくらでも売れるという時代が戦後しばらく続くわけです。当然のことながら、TWIは人々の記憶から完全に忘却の彼方へと移り、誰もTWIについて語る人間もいなければ、記録として残すようなこともしませんでした。逆に戦後の復興に待ったなしの日本やドイツなどでは短期間で工場生産などを元の状態に持っていくために、ゼロからの人の教育が必要で、そのために当時GHQと呼ばれるアメリカの占領軍は、ジェネラル・マッカサーの指令で戦後まもない時点でTWIをアメリカから日本に導入させました。
 
そしてその恩恵を最も浴したのは、数ある産業界の中でも日本の自動車産業でありました。とりわけ初期の普及段階からトヨタと日産では積極的に取り入れられ、従業員教育に大きな足跡を残しました。その過程ではトヨタ生産システム(TPS)とも上手く合流し、TPSを効果的に従業員に教育し、トヨタグループ全体にまで普及させることに役立ったのです。そして、トヨタを筆頭とする日本の自動車産業の海外市場への進出とその発展に対して、アメリカの政府関係者や大学の研究者たちがその秘密を探ろうとして行き着いた一つのノウハウにこのTWIがあったというわけです。
 
TWIの効果的なシステムの重要性を再発見したアメリカの研究者や産業人は、2001年についにTWI Institute (www.TWI-Institute.org) というアメリカで再度TWIを普及させる組織をニューヨークで設立させました。TWI Instituteは、公認TWIトレーナー認定制度を設け、認定されたTWIトレーナーがTWIの標準化されたトレーニングプログラムを用いて、各企業ベースでTWIを伝え、企業内教育の一環としてTWIを有効活用し、効果的な従業員教育システムを社内で築き上げていくという実践を行うようになりました。そのような活動がアメリカでも始まってようやく10年を経過したところですが、TWIについてその名称さえもまだまだアメリカでは知られていないというのが実情です。
 
TWIはアメリカで始まって、第二次世界大戦中に効果を発揮し、その後瞬く間に忘れられて、戦後60年近くが経過したところで先祖帰りを果たしたという経緯を辿ってきました。アメリカで忘れ去ったものが日本で息を吹き返し、戦後の復興と日本の自動車産業の勃興に大きな役割を担ってきたというのも何かの強い因縁を感じます。弊社では、このTWIを単なる製造業だけに特有なOJTだけのトレーニングプログラムとしてとらえるのではなく、どんなオフィスワークやオフィスにおける生産性に対して有効に活用できるプログラムにまで昇華させたいという、きわめてアンビシャスな理念を抱いています。現実には、製造業以外ではアメリカの医療機関ですでに導入が図られていて、大きな成果を生み出し始めたところです。本ブログの中でも、今後もこのTWIについて、折に触れて進捗状況を皆様にお知らせしてまいりたいと思います。
 

P.S. パシフィックドリームズ社のサイトにも是非お越しくださいね。 www.pacificdreams.org