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まだ誰もロンドンの、そして世界中の超売れっ子シンガーソングライターであるアデルと実際に比較した人がいるわけではないようですが、イギリスのアデルに対して、フランスにも彗星のごとく現れた超人気シンガーがいるのです。彼女の名前は、ZAZ、発音はザーズとなるようです。もっともアデルとは違って、本当の名前ではなく、彼女のニックネームから取られたそうです。容姿も声もボリュームいっぱいのアデルに比べると、きゃしゃな感じで、歳もアデルより8歳も年上なのに、アデルよりも若く見えます。それでも自然体で歌う気さくな感じはアデルにも通じるところがあります。フランスでは、シャンソンのジャンルに入っているようですが、今までの伝統的なジャンルには納まりきれない器の大きさを十分感じさせてくれるグローバルな気質があります。
 
彼女はつい最近、アメリカ公演、さらに日本公演も敢行したそうで、そのどちらもが多くの彼女の熱狂的ファンによって大成功を収めた模様です。シャンソンファンが巷にも根付いている日本での彼女の成功はよく理解できる気がしますが、フランスとはとにかく相性のよくないアメリカ人たちが彼女の歌を受け入れると言うのはかなりの驚きです。恐らく、フランス系アメリカ人の人たちによる贔屓の引き倒しではなかったかと思います。残念ながらアメリカでは、どんなラジオやテレビ番組の中でもフランス語を流すようなことはほとんどありませんので。
 
彼女のパフォーマンスを初めて見たのは、YouTubeでした。ちょっと度肝を抜かれたのは、歌の中でアフリカ土着の楽器であるカズーの物まねを取り入れる箇所があって、本当にカズーを彼女が吹いてくれているような錯覚を起こさせてくれて、かなりユニークです。それだけでも本当に忘れられない印象を残してくれます。また、歌詞はフランス語なので何を歌っているのかは当方まったく分からないのですが、アメリカ南部のジャズやブルースに似た強烈なリズムに乗って歌っているかと思うと、後の作品は、ギターとベースだけのシンプルなアコースティックだったりと音楽の原点を気ままに楽しんでいる本人の歌う喜びがストレートに聞き手に伝わってくるのを感じます。
 
本格的にデビューする前は、バンドの一員として海外をドサまわりしていたようで、また、モンマルトルでのストリート・パフォーマンスが得意であったり、マイクの設備もないような寂れたナイトクラブで夜が明けるまで一晩中歌っていたということもあって、アデル同様、歌うことに関しては、どんな環境下であっても筋金入りの強靭さを兼ね備えているシンガーのようです。そのような境遇であったのなら、大変な苦労をして現在の栄えあるアーティストとしての地位を築いたという感じに見られていても不思議ではないのですが、どうも本人はそのような苦労人とはまったく縁のないような垢抜けた性格の持ち主で、それが人気に火をつけている理由ではないかと思います。
 
本格的に彼女がアメリカでも認められるようになるには、シャンソンの世界に浸っているようではダメで、好むと好まざるとにかかわらず、近い将来、英語で歌うアルバムも出さねばならないかと思います。それでも、彼女のよさはアデル同様、気さくで可愛らしくて、自然体のよさがありありと溢れているところにあるので、無理してアメリカの音楽市場を制覇をするなどという野望は間違っても考えていないところに本人の魅力があります。アデルといい、このZAZといい、従来のエンタメやスターダムのくくりだけでは相容れないような大物としての器がヨーロッパの国々から出てきているのは、音楽は決してアメリカだけの独占場所ではないということを認識させてくれて、よい刺激になっているのだと思います。
 
ZAZは、アデルに比べると粗野そのもので歌い方もカズーの面白超絶テクニックを除けば、歌のバリエーションがまだまだ少ないように私には映ります。恐らく本人がそのことを一番よく意識しているのかもしれません。しかし、アメリカ人やイギリス人の歌手とはまったく違った、シャンソンの伝統も兼ね備えて、何よりも歌うことが好きで好きでたまらないというエネルギーの流れがこれほどまでに伝わってくる歌手はフランスでも、かのエディット・ピアフ以来のことで、彼女の再来ではないかと言われているのだそうです。アデルがお気に入りの方には、またアデルとは違った才能があるこのZAZの歌を、最初は大ヒットした曲“Je Veux”(私の欲しいもの)あたりからお聞きになってみられますことをぜひお勧めしたいと思います。
 
 
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