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以前、このメルマガの中でレジリエント(Resilient)というあまり耳慣れない英単語をご紹介したことがありました。そのときは、「弾力性のある」という辞書の中にあった訳語を使いましたが、レジリエントの最近の訳語としては「再起力のある」という言葉もあり、こちらの方がより適切で定着しつつあるようです。Resilientは形容詞ですが、名詞は“Resilience”になります。アメリカのビジネスの世界では、このResilienceは、いまやひとつの流行り言葉にもなっていて、レジリエントであることを自分の長所として、企業での採用面接でも使う人が出てきていると聞いています。
 
人生には、自分の力ではどうしようも出来ないことがある日突然降りかかってくることがあります。まさに想定外の出来事に襲われたとき、そしてそのために多大な負債を負った、全財産を無くしてしまった、家族も無くしてしまった、仕事を失ってしまった、会社が倒産してしまったというような出来事は、誰しも永遠に来ないことを期しているわけですが、現実には起こりうるわけです。そのような状況の中であっても、日本の諺にあるように「七転び八起き」の出来る人がまさにレジリエンスのある人であると申し上げられます。では、このレジリエンスを持つ人とは、本当にどのような人たちなのでしょうか?
 
ビジネス書として日本でもベストセラーとなった「ビジョナリー・カンパニー」の著者であり、アメリカでは著名な経営コンサルタントとして活躍中のジム・コリンズは、本著の執筆にあたって、組織におけるレジリエンス、つまり再起力について、楽観主義的な人々が集まって構成されている組織ほど、この能力が高いのではないかという仮説を最初に立て、多くのリーダーたる人々に向かってインタビューを果敢に行いました。その彼のインタビュー活動の中で、ジム・ストックデール元将軍からの話が大変象徴的であったと、彼はあとになってから記しています。それは、ベトナム戦争で捕虜として捕らえられ、虐待を受けた兵士の中で、生き延びた者とそうでなかった者との違いについて、元将軍は楽観主義の者が最初に死んでいったと告白をしているのです。
 
これはコリンズ氏にとっても、当初彼の考えていた仮説をあっけなく打ち破るかなり意外な結果だったと、やはりあとになって回想しています。ところが、戦争やテロ、地震や津波など一瞬にして生死を分けるような状況に人が遭遇したとき、冷徹かつ現実的、しかも時には悲観的ともいえる状況の受け入れを自分自身が出来るものか、さらに自分のいる組織も出来るものかという自問自答をもってして、いまある現実を直視し、その現実に向き合わねばならないというのは、冷静になって考えてみれば確かにその通りのはずです。それを自分だけは津波から生き延びられる、テロ攻撃を受けたビルの中で自分がいる会社のオフィスだけは大丈夫だというような現実とはおよそかけ離れた非現実的な楽観主義しか持っていなかったのであれば、その人の命が確かにいくらあっても足りないかもしれません。
 
911の際に、ワールドトレードセンターのサウスタワーの32階分にオフィスを構えていた当時最大のテナントであり、2,700人を超える従業員が働いていた大手投資銀行のモルガン・スタンレー・ディーン・ウィッターは、ノースタワーに最初の旅客機が直撃したあと、1分後には、ほとんどの従業員がオフィスから脱出を始め、その後2機目の旅客機がサウスタワーに突っ込む15分後には、モルガン・スタンレーのオフィスは完全にもぬけの殻で、それでも2,700人中7名の犠牲者が出ただけで済んでいるのです。このときは、退役軍人でやはりベトナム戦争にも従軍したことのある当時セキュリティ担当バイス・プレジデントであったリック・レスコーラという人物がほぼすべての従業員をオフィスから避難誘導を行い、逆に彼は命を失った7人の一人となってしまったいう逸話が残っています。
 
東日本大震災にとなう大津波の際にも、一目散に高台に駆け上って一命をとりとめた人と避難に遅れて津波に流されお亡くなりになった人といったい何が命運を分けたのでしょうか。前日のレスコーラ氏によると非常時になると、人間というものは、なぜか事実の「否認」を起こすということを自身の戦争体験から知っていて、そのために氏は銀行の従業員に対して8年間毎年欠かさず徹底した避難訓練を実施していたというのです。以上の話を聞いてみますと、人間に想定外の出来事が起こった際には、残念ながら楽観主義は何ら助けにはならないという冷酷な教訓です。一般的にビジネスの世界で崇高されている楽観主義は、決してオールマイティなどではないのです。恐らく高いレジリエンス能力を持つ人は、本能的にこのことを理解していたのかもしれません。
 
かといって人間と人間の組織において終始悲観主義でやっていくというわけにもいきません。楽観主義でもなければ悲観主義でもない、あるのは徹底した現実主義であるというのは、私の15年に及ぶ苦難の連続であった企業経営から得た教訓でもあります。まったく当たり前のことなので何も私から言うほどのことではないですが、それでも世の中ではけっこう軽視されていることであるかもしれません。しかも、人間に想定外の出来事が起こると、人間の頭脳はほぼ機能停止に陥ってしまうというのもテロや自然の大災害から学ぶことの出来た貴重な経験則であったわけです。脳の機能停止に襲われ、現実を否認する人間の拠り所は、体で覚えているということだったのです。体が瞬時に反応して動くかどうか、それが非常時での生死の分かれ目であったといえます。そこに楽観主義を入れさせないというのは、人間にとってはひとつのパラドックスだということも肝に銘じたいところです。
 
 
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