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もう1ヶ月以上前になりますが、アメリカ海軍の特殊部隊(“SEALS”)が、パキスタンの首都近郊に潜伏していたウサマ・ビンラディンの殺害に成功したニュースは世界中に大きなインパクトを与えました。オバマ大統領が粛々としたポーカーフェイスでその殺害声明を行った後、ホワイトハウス周辺やニューヨークのタイムズスクェア一帯では、若者を中心としたお祭り騒ぎに発展したというのもまだ記憶に新しいところだと思います。殺害後、アメリカとパキスタン、そして原理イスラム教色の強い中東諸国との対米関係などを危惧する報道が相次ぎましたが、今までのところでは、多少の報復と思われるテロ事件は発生しているものの、ビンラディンの殺害は、すでに一過性の過去の出来事になった印象さえします。それは、先月行われたフランスでのG8サミットをみてもビンラディン後のアルカイダやパキスタンやアフガン情勢についての議題はほとんどなく、中東・北アフリカの政治改革問題が日本の原発問題以上に討論され、かたや大手IT企業のトップを招いてのインターネットサミットもあったりということからも感じられます。
 
それでは、こちらにいる一般のアメリカ人側はビンラディン殺害作戦のニュースに対してどのような受け取り方をしているのか、自分なりの観察を交えて独断的に作戦が与えたインパクトについて検証してみることにします。まず今回の作戦で目を引くのは、何といっても特殊部隊がヘリコプターを使ってビンラディンが隠れ家として使っている邸宅まで乗り込んだということです。つまり、これは空爆ではなく、明らかに地上戦をオバマは選択したということになります。ここにアメリカ人が熱狂する本当の理由が隠されています。それは、空爆であれば邸宅もろとも木っ端微塵で、ビンラディン本人の死体検証さえ時には難しくなることが考えられます。しかももしビンラディンが潜伏していなければ、相手国はパキスタンで表向きは、アメリカに軍事協力している国ですから、その国のしかも首都近くにある個人の邸宅を空爆するというのは、オバマにとってもやはり避けるべき選択だったのだろうと思われます。
 
そこで、特殊部隊を使った作戦の選択です。こちらは、実際にビンラディンがその邸宅にいるかどうかという確証は、70%ぐらいであったということをあとからホワイトハウス側は発表しています。つまり、30%の確率で、ひょっとしたらビンラディンは当日いないかもしれない、あるいはビンラディンの隠れ家でも何でもないかもしれないという可能性さえ残っていたわけです。しかし、特殊部隊が空から地上に下ろして家に押し入り、無を言わさずにビンラディンを殺害し、しかも彼のDNAをも証拠品としてつき合わせたというのであれば、これ以上の確固たる殺害証拠を求めることはほかに事実上出来ないほどです。それを選択肢としてはオバマは要求し、作戦を実行したというのですから、西部劇で最後に街の保安官が悪党を一騎打ちで射止めるようなそういった爽快感をアメリカ人の多くが抱いたというのは想像に難くないところです。
 
しかし、この作戦の選択には、大統領として相当なリスクがあったのも事実だと思われます。近年の歴史を紐解けば、1980年にイランで人質になったアメリカ大使館員を当時のカーター大統領が地上部隊を投入して救出する作戦が見事に失敗して、そのせいもあって、カーターは2期目の大統領選でレーガンに苦杯をなめています。そして近年のアメリカ大統領は、地上戦でのリスクの大きさを嫌って空軍頼みの空爆ばかりを支持しています。みなカーターの二の舞になるのだけはごめんだということです。ところが、今回オバマはそのタブーを破って、彼の政治生命を賭けた地上戦での賭けに出たわけです。もし彼がこの作戦で失敗していたのであれば、ここのところ、かつてのアメリカ国民からの熱狂的な支持からは急激に距離を置いて冷めてしまったオバマ人気の翳りはもはや決定的なものとなり、来年の2期目を目指す大統領選挙でも大きなマイナスダメージになったことは、やはり想像に難くないところだと思えます。
 
そういう意味において、このビンラディン殺害の成功は、この時期に来年の大統領選挙を口にするのはまだ早すぎるかも知れませんが、オバマ2期目の大統領選を盤石なものにする大きなターニングポイントになった作戦であったと申し上げても過言ではないと思います。共和党候補の最有力候補の一人と目されていたマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事が来年の大統領選には出馬しないと先日正式表明をしたのと、やはり共和党のダークホースになる可能性もあった、かの不動産王ドナルド・トランプも大統領選には出馬しないという発表をしたといった具合に、すでに宿敵である共和党内からの有力候補からは白旗を掲げているといった有様なのです。
 
アメリカ人は、日本人以上にグレイなところやあいまいさが残ることを嫌い、白黒決着をつけるのを大変好む国民性であるということは恐らく傾向としていえるかと思います。そのアメリカ人が今回のオバマが出した地上戦という選択の中で、ビンラディン殺害に成功したという事実は、まさにアメリカ人の国民性に訴えて余りある戦勝品をもたらしたということに間違いはないでしょう。そのようなアメリカ人が持つ復讐劇を支持する心境に西部開拓時代の名残りともいえる世界一の文明国でありながら、自由や独立のためであれば戦争も辞さず、日本人から見ると野蛮ともいえるDNAがいまだ残っているのだとしたら、それは確かにその通りなのだろうと思います。常に知的で冷静で能弁家であるオバマでさえ、実はそういう面を持っていたのですから。しかし、そこにオバマが持つ本来の伝統的なアメリカ人としてのDNAを強く汲み取り、さらに強い共鳴を改めて感じたというアメリカ人が大勢いたということがこの国にいる私には肌で感じられるところでものあるのです。
 
 
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