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その昔、日本がまだ高度成長期にあった70年代にかけて、世界中の国々から働き中毒で、ウサギ小屋みたいな貧しい住環境で会社のために忠誠を尽くす国民性を揶揄して日本人は「エコノミックアニマル」と呼ばれていました。まだそのころは、経済や技術面で欧米先進国に追いつくことだけを目標にして、日本人はただただがむしゃらに長時間労働をしていました。今の日本にはその昔日の面影もないほどで、特に若い人たちには、恐らくそのような言葉が存在していたことさえ知らないのではないか思われるほどです。いまやエコノミックアニマルの本領は、中国や韓国、東南アジアやインドなどの新興国にすっかり移転してしまいました。
 
1月の日経新聞を読んでいて、東大教授の玄田有史氏が投稿された記事の中で「アニマルスピリットの回復」という言葉を使っていたのに目が止まり、痛く共感を覚えました。私も今まで図らずも知らなかったのですが、かの英国の経済学者であるケインズが自書の経済書の中で使ったのがこのアニマルスピリットの言葉の起こりだそうです。文脈の中のケインズの意図からすると、“挑戦者魂”であるとか“開拓者精神”あるいは、“野心的意欲”といった意味合いが強く込められています。さらに言えば、ケインズは、「経済そのものを動かす原動力というものは、人間の持つ合理的な判断だけからではなく、合理的にはうまく説明の出来ない、思わず行動に掻き立てる人間本来が持つ動物的衝動なのである」というようなことを述べています。
 
このような人間本来が持つ動物的衝動が著しく欠如してしまった最近の日本の若い男性を称して「草食系男子」なる言葉も浸透して久しいわけです。世の中が不景気で超就職氷河期で、少子高齢化だけが進み、しかもデフレが何年も続き、政治には今後ともまったく期待できないという中では、確かにアニマルスピリットが萎んで草食系だけを残して、肉食系は皆どこかに消え去ってしまっても、それはそれで不思議でもなんでもないことです。このアニマルスピリットを使って様々な好不景気の現象を解析しようとした経済書がその名も「アニマルスピリット」と題して、アメリカの著名な二人の経済学者の執筆で2008年に出され、その日本語翻訳版もすでに刊行になっていることを遅ればせながら先日知りました。
 
ですから、アニマルスピリットは経済学の世界にあっては、ここ最近のブームであり、経済現象を理解するための重要なキーワードになっていたのです。ですが、ノーベル経済学賞を受賞した経済学の碩学からいちいちその大著の中でごもっともなご指摘を受けるまでもなく、アニマルスピリットのような衝動や気概がなければ、この世の中で経済もお金もいっこうにまわらないだろうということぐらいは、私のような凡人にも十分理解できます。そしてそのような衝動や気概は、もう日本にはとっくに消え去ってしまって残っていないから、韓国や中国、そして東南アジアの方々にお任せするので、あとはよろしくねといったような傍観的、静観的な態度をもし日本人が今取っているのだとしたら、それが一番問題ではないかと思うのです。
 
日本から消えて久しいアニマルスピリットを日本で見つけ出すのが無理であるならば、ではまだアニマルスピリットが存在している場所にまで出向いていって見つけてみようというぐらいの気持ちがなければ、日本の衰退は今後とも加速度的に進むことに恐らく論は待たないでしょう。つまり、アニマルスピリットは、ケインズがいみじくも比喩として使ったように、行動を起こさなければ決して得ることの出来ない気質のものであり、自分たちの不運を嘆いてみたり、またいい時代もそのうちいつかは戻ってくるとただじっとして待っているだけでは、座して死を待つようなものだということだけはいえるのではないでしょうか。「鳶が鷹を生む」とか「棚から牡丹餅」ということは本来ないわけで、日本人としてはその辺のところは本当に肝に銘じなければならないことです。
 
そういう意味では、政府も失業保険の延長やセーフティネットの拡充ばかりを目指す、あるいは企業も内部統制やコンプライアンスばかりに目を向けるというだけでは、やはり経済全体としては積極的にはお金ははまわっていきっこありません。もちろん、セーフティネットやコンプライアンスにきちんと対応することは非常に重要なことではありますが、同時にいかにして稼ぎ出すかをもっと真剣に考えなければ、国も企業も縮まるばかりではないですか。エコノミックアニマルは完全に死語になってもそれはそれでよかったわけですが、アニマルスピリットは、日本人が最も今必要とされているキーワードのひとつだと思います。
 
アメリカも昔ほどには、リスクを取っても報われるという国ではだんだんとなくなりつつあるのですが、それでも未だに世界中からの移民が渡ってくる国であることに変わりはありません。ですから、国としての新陳代謝というか、ダイナミズムがまだまだ感じられます。その辺が、アメリカは私をしてまだアメリカに居残って自分のビジネスを続けていくだけの価値のある国にしてくれているのではないかと思うところです。アメリカにいれば日本とは違った意味での競争が非常に激しく、生き残ること自体決して容易なことではありませんが、アニマルスピリットの伝統はまだまだ残っているといえますね。それをしてさらに海外からの優秀な人間を世界中から引き寄せ続けているダイナミズムの循環がある限り、アメリカという希望の火は、今後とも残り続けられるのではないかと考えています。
 
 
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