
日本とアメリカの職場を比較してみたときに最も大きく違う点は、終身雇用の考え方やその保証がアメリカの職場にはかなり以前から喪失しているということではないかと思います。アメリカでも20年前までは、IBMやP&Gなどのアメリカを代表する大企業では、終身雇用といってよい企業側の制度と理念の下で、退職するまでひとつの企業に勤めるということは存在していました。ところが90年代に入ってからは、日本との競争やテクノロジーの進歩などでアメリカ企業の採算が著しく悪化し、終身雇用などの企業理念をいともたやすく放棄する大企業が続出しました。それ以来、終身雇用と云う言葉はアメリカでは、死語となりました。
アメリカ企業の多くは、90年代を境にして、組織のリストラに走り、事業部ごとカットしたり、人員削減を貫徹しました。その際、日本では、子会社や協力会社などに余剰人員の受け皿になってもらったり、早期退職を募ったりします。一方のアメリカでは、早期退職を募るということもしないことはないのですが、ほとんどの場合、文字通り、社員の首切りを断行します。しかも多少の利益がまだ出ているような事業部であっても、将来性がないと判断されれば、売却されるか、事業部を閉鎖するかのどちらかという場合も少なくありません。まさに、日本企業にはない、合理主義に徹したドライな経営感覚であると申せましょう。
その最たる企業のお手本がかのGEです。GEは、20世紀最高の経営者との誉れの高い前会長ジャック・ウェルチが君臨した1981年から2001年の20年間で社内のリストラと積極的なM&A(企業の合併や買収)を繰り返し、文字通り、GEを世界最大の製造業メーカーの地位に押し上げた立役者です。彼は、会社は守るが従業員は守らないという定評から、建物は破壊せず中にいる人間のみのを抹殺する中性子爆弾の特性になぞって、「ニュートロン・ジャック」と揶揄され、恐れられていたカリスマ経営者でした。ですから、GEに勤めていたものの、首切りにあってGEを後にしたGE出身者の人たちは大勢いますし、ジェフ・イメルト会長になった後でもその傾向には、変わりがないようです。
GEでは、毎年業績のボトム(底辺)にいる10%の従業員が肩たたきの対象になるといわれています。しかしここで面白いのは、ウェルチのいた時代は分からないのですが、現在のGEでは、冷徹なやり方でボトムの従業員の首切りを断行してわけではないのです。アメリカの優良企業の特徴として、業績が低迷している従業員、あるいは自分の持っているスキルや経験が活かしきれない人材には、ある一定の手順を通じて、穏便に肩たたきを行い、多くの場合、従業員自ら会社を辞めていくというやり方をとるというのです。このようなやり方を、”Great Employee Only“の著者であるDale Dautenは”De-Hiring“と呼んでいます。
De-Hiringは、アメリカの多くの優良企業に勤めるマネジャーが密かに行使している手法であると、Dale Dautenは本書の中で述べています。ですから、アメリカの優良企業における従業員の離職率は全米平均よりも高いといわれています。肩たたきにあって辞めていった従業員も会社を恨むことなく、たまたま自分はその会社では自分の持つ実力が発揮できなかっただけなのだという前向きな姿勢で別の就職先を見つけることになります。しかも辞めていった元従業員は、前上司のマネジャーにとっては、ある種、卒業生のような見方を持っていて、卒業生であれば、自分が卒業した学校を終生誇りに思うのと同じように、以前働いていた職場や企業を終生誇りに感じながら、新しい就職先で力を発揮するというわけです。
その最たる例がアメリカではGEだというように巷では云われています。IBMやP&Gなども恐らくそうなのではないかと思われます。弊社PacificDreamsでも多くの従業員が今までに弊社での業務を経験しました。弊社では、あまり肩たたきなどをしたことはなかったのですが、優秀な従業員はさらに挑戦のし甲斐のある道を求めて弊社を退職しました。それは、私にとっては、従業員が進むべき道を真剣に求めて、それで得た結果であれば仕方のないことだと思いましたので、とく優秀な従業員の辞職は堪えましたが、今でもそのような優秀な従業員とはやり取りが消えてはいません。まさに、卒業生だと呼んでよいでしょう。しかしそれでも、企業経営者としては、優秀な従業員にはいつまでも弊社で活躍できる道をつくるのがより重要な使命であるとも考えているのは、もちろんのことなのですが。
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