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プロスキーヤーそして冒険家として世界的に有名な三浦雄一郎氏の息子(次男)さんで、やはりフリースタイルのスキーヤーであり登山家でもある三浦豪太氏が最近の日経新聞に書いていたエッセイの中で、登山中の遭難事故では、山頂への登りでの事故よりも山頂踏破後の下山での事故の方がはるかに多いと述べていましたが、その話は、以前にもどこかで書かれてあったのを見た記憶があります。その理由を三浦氏は、山頂への登頂という一大目標を達成した後に起こる目標の喪失感と放心状態、さらにそのために起こる気持ちや緊張感の緩みなどに遠因があるのではないかと指摘されていましたが、なるほど登山とはあまり縁のない私にも理解できるように思えます。
 
2008年に三浦雄一郎氏が75歳でエベレスト登頂にのぞみ、最終ベースキャンプ地から山頂に向けてスタートしたときに三浦氏は、息子の豪太氏に次は80歳でエベレストにまた登ろうといってキャンプを後にしたということをエッセイの中で書かれていました。山頂へ登頂する前にすでに次の目標を定めていたというところに極限の体力と判断とが強いられる非常に過酷な世界最高峰への挑戦の渦中にあっても、冷静に次の目標を語れると云うのは、やはり三浦雄一郎氏のきわめて非凡かつ偉大な点であると申せましょう。
 
今年カナダのバンクーバーで開催のあった冬季オリンピックの女子フィギュアスケート・シングルで金メダルに輝いた韓国のキム・ヨナは、1ヵ月後にイタリアのトリノで開かれた世界選手権では、浅田真央に敗れて2位だったのはまだ記憶に新しいことと思います。恐らく、あれだけオリンピックでは完璧な演技を見せたキム・ヨナであったにしても、金メダル獲得後の目標の喪失という状態には、自分自身では簡単に打ち勝てなかったのではないかと察せられます。
 
登山家でもアスリートでもないこの私ですが、企業経営を10数年やっていますと、毎年それなりに目標を年の初めに定め、営業活動を展開していきます。ですが自分の定めた目標どおりになぞ、これぽっちもいかないことの方がはるかに多いということに毎年遭遇し続けています。年初に立てた目標どおりに行かないからといって、そこで不平をたれたり、世の中の景気の悪さを呪ってみたりしても、いいことなんかはひとつもありません。そこで、私は年初に立てた目標とはまた違った別の目標を途中で立てることにしています。何か最初に立てた目標を軽々しく放棄するように映るかもしれませんが(私も長年、そのような呪縛に捕らわれていました)、年の途中で予期しない不測のことが起こり、自分の力ではどうにもならない場合、例えばリーマンショックなどが起きたとき、その新しい過酷な現実を見据えた新しい目標を立てるようにしています。
 
また、ひとつのプロジェクトやイベントの成功という目標に向けて歩んでいるときも、やはりその後に続く別のプロジェクトやイベントのことをも考えられるように努めています。しかし、ひとつのプロジェクトやイベントを貫徹することでさえ、それだけに全身全霊を傾けなければならないのが常でありますから、今あるプロジェクトやイベント以外のこと、しかもさらなる将来のこととなる目標を探すこと自体、決して簡単なことではありません。しかしそれができなければ、企業としての持続性を維持していくことはとても難しくなります。企業経営とは、まさに小さな目標の連続性をいかに維持し続けられるかにかかっているといっても過言ではないと思います。
 

私は、やはり日本人だからか、日本のカイゼン活動というやり方が好きです。それはアメリカ流では、イノベーションがカイゼンに相対するコンセプトになるのでしょうが、今までの技術が過去の遺物になってしまうような技術革新を一夜にして起こすにしても、その前段階ではとてつもない実験や調査、仮説の立証などが当然あるわけです。天才がベッドやお風呂の中で突然ひらめいたことだけがイノベーションにつながっているわけではないと思います。目標を立て、その目標も状況に応じて臨機応変に変えながら、日々業務のカイゼンを飽きずに続ける私のような経験だけはあってもとりえもほとんどない凡人には、そのくらいのことしかできることはありません。まさに日本語で云うところの「愚直」というところなのでしょう。

 
それでも目標を常に持ち続けるというのは、やはり人間、愚直なぐらいでないとなかなか続かないものです。世の中の風潮としては、そのような特性は日の目を見ることはあまりないのかもしれません。ですが、小さくても明確な目標さえあれば、今日は仮にうまく行かなくても人間明日また頑張ろうという気にさせてくれます。明日やること、来週やることが頭の中にふつふつと浮かんできます。目標を持ち続けることが、すなわち、人生の生きがいにつながっているというこっとだけは断言することが出来ます。ということで、早速、次のエベレスト登頂とはいかない、自分の身の丈にあった小さな目標を探すといたしましょうか。
 
 

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