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今年シリコンバレーで開かれたある日米異文化関係に関するフォーラムに私は、いそいそと参加いたしました。そのフォーラムには、3人の日米異文化分野のエキスパート(すべて女性)がパネリストで「日本はこれからいったいどうなって行くのか?」というようなテーまでそれぞれの持論をプレゼンの形で展開してくれました。3人のパネリストのうち日本人はお一人で、「新たな鎖国状態」を作り出している日本という彼女の視点(特に最近の若者の傾向)は、私にはもっともしっくりといくものでした。ご本人は、3人のうちでもっともペシミステック(悲観的)なプレゼンだと考えておられていたようでしたが、楽観的・悲観的を通り越したきわめて現実的な時宜を得た観察だという印象を覚えました。
 
パネリストの残りのお二人はいずれもアメリカ人女性で、中間論と楽観論に位置する論者という立場でプレゼンを展開してくれました。中間論だという立ち位置にある女性パネリストは、日本は今後イタリア化していくのではないかというようなとてもユニークなものでした。確かに、彼女が指摘するとおり、日本とイタリアは、偶然とはいえ、共通点が多いでのす。それは、国の歴史が古い、従って歴史的な名所が数多く残っている観光立国(日本はイタリアと比較できるほど観光立国化していませんが)であり、伝統的な職人や職人的工芸品が多く残っている、デザインにも優れ、それが現代の工業製品にも反映されている、そしておまけは、政治も首相がよく代わったり、問題発言をしたり、ということでやはり似ているというのです。
 
うーん、言われればなるほどとも思いましたが、先日サッカーの日本代表監督に就任したイタリアのアルベルト・ザッケローニ監督も確かJリーグも含めてイタリア人の監督はいままでに日本サッカー界ではいなかったはずで、日本とイタリアにおけるサッカー界は、非常に縁は薄かった(ただし、ボローニャとフィオレンティーナで活躍したあの中田英寿は、別格)わけです。日本とイタリアのサッカー界の話を持ち出すまでもないのですが、アメリカ人女性から日本とイタリアは似ているところが多いから、日本はイタリア化する道をこれからは歩めばよいと云うのは、ちょっと簡単には納得できない近いご意見です。
 
ご存知のようにイタリアは、EU内のユーロ圏で不名誉なPIGS(ピッグス)の一員にしっかり入っています。PIGSと云うのは、ポルトガル、イタリア、ギリシャ、そしてスペインの4カ国で、会社経営で言えば、国家ベースで債務超過に陥っている国々で、これらの国からユーロ圏内における金融危機、しいては世界の株式市場などに与える負の連鎖反応が今年前半、国際金融面のニュースを賑わせたことはまだ記憶に新しいことだと申せます。まあそんなこと言っても最近の日本も国家財政も大変な赤字状態で、同じような道を歩んでいるのではないかといわれても仕方ないような状況下になっているのは否定できないことです。しかし、PIGSのように世界経済に負の連鎖反応を与えるほど、日本の国家財政は破綻してはいないと云うのが偽らざるところではないでしょうか。
 
アメリカ人は概して古い歴史を持つ国々に対して、ある種、感情的な畏敬の念を抱いているところがあります。その意味では、日本もイタリアもその感情的なレンジに見事に収まる国であると申せましょう。だからといって、文化も言葉もまるで違う東西に大きく離れた2つの国家が現在共通点がいくつかある似たもの同士だから、日本はイタリアのような道を歩めばよいというのはいささか暴論ではないかと感じます。日本がイタリアのような観光立国になるのは、政府が音頭を取るほどたやすいことではなく、過去の歴史文化や遺産だけで世界の中で安閑としてやっていけるほど、グローバル化は甘くないといえるでしょう。やはり弛みのない技術革新が今後とも日本には必要であることは火を見るよりも明らかなことです。
 
最後のアメリカ人女性パネリストは、日本は、人口が多く、これからの経済発展の中心となるアジアに中に位置しているので、アジアを中心とした経済発展の推進役となるであろうという超楽観論をご披露していただきました。これもそうなってくれれば嬉しい限りですけれども、すでにアメリカをはじめ、日本は経由しないで直接アメリカから中国やインドに企業が乗り出せば、政治だけでなく、経済も日本素通り(ジャパン・パッシング)で、日本はアジアの発展から取り残されない気配させすでに漂っています。楽観論であるというのは、それを支えている土台が一度でも崩れれば、あとに待っているのは極度な悲観論となるかと思われますので、やはり彼女のプレゼンには簡単には組みできないところがありました。
 
やはり今回のパネリストであったアメリカ人女性お二人には、「日本人は変化に対応しない人間だ」というところがベースに強くあったように感じました。アメリカ人の中でも飛び切り日本通といわれるそのお二人から見ても、日本はいつまでも変わらない国なのだそうです。これは、ある種、事実であるかもしれませんが、細かく見れば、日本は大いに変わってきていると私には見えますし、もちろん変わらないところもあるし、偏見を捨てて、変わっているところをもう少し丁寧に観察して欲しいと云うのが私の一番の感触でした。どうも日本通と称しているアメリカ人の中のには、昔のままの日本をいつまでも自分のベースにして同じような発言を繰り返している人がいます。日本人の口からも日本は変わりつつあるのだというメッセージを英語で世界に伝える必要があります。さもなければ、ジャパン・パッシングになってしまいますよ、本当に。
 
 
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