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日米の企業文化を比較するときよく話しの種として出されるのが、オフィスのレイアウトの違いです。日本企業は大企業であれ中小企業であれ、おしなべて大部屋主義を取っています。個室を持っているのは、社長か専務取締役くらいなものだったりします。中には、大企業の社長でも個室などを持たず、通常の従業員と机を一緒に並べているところさえあったりします。オフィススペースも地価の高い東京などの大都会では、ただでさえ狭くて限りのあるスペースなわけですから、その限りあるスペースを有効活用しようとすれば自ずと大部屋方式にならざるを得ません。そして、誰もが仕事中のプライバシーなどはあまりない中で、お互い簡単に顔を見合わせる距離で仕事に専念されています。
 
それに比較して、アメリカのオフィスは、日本と比べてもともとオフィススペースはたっぷりしていますので、その余裕のあるスペースをいくつかの個室に仕切って、マネジャー以上の管理職は、ドアのついた快適な個室で仕事をしているのが一般的です。マネジャーではない一般社員はどうかといいますと、“キュービクル”(Cubicle)と呼ばれるオフィス・ユニットのセットに囲まれていて、ほぼ個室に近い環境の中で仕事をしています。ですから普通キュービクルにいる者同士の間では、お互いの顔を見ることは出来ませんし、相手の声もよほど耳をすまさない限り聴き取りにくい状況です。そういう意味では、一般社員であっても仕事中のプライバシーが保たれています。
 
それではアメリカで操業をしている日系企業などでは、どうしているのでしょうか。最もよく見かけるのは、完全なキュービクル・スタイルではなく、言ってみれば“セミ・キュービクル”とでも呼ぶべきものです。個室のように一人一人が仕切られてはいるものの、高さが低いので、相手の顔は見ようと思えば見れるし、声も完全に遮断されることなく隣人に伝わります。ですが日本のような大部屋方式とは明らかに違います。このようなセミ・キュービクル方式を採用している企業は日系企業に限らずアメリカ企業の中でも増えているようです。やはり一般社員をプライバシー重視で完全に囲い切ってしまえば、どうしたって社員同士の横のコミュニケーションは、一人一人が相当努力しない限りはなかなか円滑にはいかなくなるからだろうと思われます。
 
先月シカゴを訪れた際に訪問したシカゴ郊外にある医療関係のアメリカ企業は、同じ部署やチームの人間が半円形のオフィス空間を共有していて、それぞれにデスクがあって各自のオフィスとしていちおうは仕切られてはいるものの、中央部分に全員が集まることの出来るテーブルと快適なソファとがあって、朝のチームミーティングなどが簡単に開けるようにできていました。チームミーティングなどという別に改まったものでなくても、チームメンバー同士が二人三人集まって手短に個別の打ち合わせをする場所としても優れた空間ではないかと感じました。それでもマネジャークラスの管理職は、皆とても快適そうな個室を構えており、やはりマネジャーとしてのある程度の特権を認めているように見えました。
 
アメリカ企業のオフィスで全般的に言えることは、スペースの広さもさることながら、社員が快適に働けることに関して最大限の配慮を示し、そのためにはそれなりの投資を行っていると云うことです。ただそれで、社員同士の横のコミュニケーションが断絶されてしまうようでは身もフタもないですので、その辺は注意深くバランスが取られています。以前、地元のヒルスボロ市にあるインテルの工場オフィスを訪問したことがありましたが、お会いしてくれた女性のエンジニアは、誇らしそうにその当時社長兼CEOであったアンディ・グローブも自分が働いているキュービクルとまったく同じスペースで働いているといっておりました。アンディ・グローブに限らず、確かにインテルの歴代トップは、皆一般社員と同じスペースのキュービクルで働かれていたようです。
 
オフィスのレイアウトは確かに企業それぞれのコーポレート・カルチャーを端的に表してくれています。その点、日本の大部屋主義は、どこも同じであまりにも個性がないように私には映ります。そうは言っても最近では、一部IT企業でフリーアドレスのオフィスが登場したりして、ユニークなオフィス環境も出現してきてはいるようですが、それらがニュースになるのを見ているとまだまだ特殊な例に過ぎないことが分かります。オフィス環境がよくなければ、ユニークで革新的なアイデアも生まれにくいし、優秀な人材も働き続けないというアメリカ人ならびにアメリカ企業の事情もそこにはあるとは思いますが。
 
日本人は、精神的なところを拠り所にして、いまだに「根性」であるとか「気合い」であるとかが、仕事の成果を左右する重要な要素だと考えるフシがありますが、その点、アメリカでは、まわりの環境を拠り所として、特に結果がうまくいかなかったような場合には、そちらをよく持ち出して言い訳として使います。そういった言い訳を社員からされないようにするためにも、アメリカ企業は、オフィス環境だけはある程度の投資をして、常によい状態に保とうと心がけているといったら少々うがちすぎる見方となりますでしょうか。
 
 
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