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先月728日に、アメリカ連邦地裁が、アリゾナ州の新移民法の主要条項の施行指し止めを命ずる判決を下したというニュースは日本ではあまり大きなニュースにはなっていなかったようですが、アメリカでは、朝刊一面にでかでかと報じられた重大ニュースでした。今年の4月にアリゾナ州議会で可決された、州の新移民法、といっても不法移民への取締りを強化する全米で最も厳しい内容となる不法移民取り締まり強化法と呼んだ方がはるかに適切な州法は、423日にジャン・ブリューワー州知事が署名をして正式に施行が認められる法案となりました。
 
新法施行の場合は、州法では通常3ヶ月間の施行猶予期間が設けられていますので、正式な新移民法の施行は729日からの予定でした。ところが、オバマ政権下での違憲だとする判断のもとにアメリカ連邦地裁のスーザン・ボルトン裁判官は、施行予定のギリギリ1日前という中で、移民法の主要条項部分の指し止めを命ずるということで、とりあえずは、本法案施行は停止状態となりました。移民法とは、本来、連邦政府管轄下におかれた国の政策を反映するものであって、州単位で個々に異なる施行が行われてはならないという判断がそこには働いています。
 
先ほど、アリゾナ州の新移民法は全米で不法移民にとって最も厳しい内容になると書きましたが、メキシコとの国境線を越えて不法に入ってくるヒスパニック系住民が対象となっているのは、火を見るよりも明らかである点が、人種差別を禁止している連邦公民権法第7章に違反しているものと考えられます。警察当局は、少しでも不法移民である懸念が働ければ、職務質問を行うことが出来、合法的な移民者であってもそれを証明できるものを持参していなければ、警察はその場で逮捕することができるといった内容なのです。つまり、この新移民法が施行されれば、合法的に永住権を持っているヒスパニック系住民の逮捕があまた出てくる可能性が高いわけです。
 
私自身、アメリカでの人事管理コンサルタントととして、アメリカの雇用労働法や移民法について、別に弁護士ではありませんが、常に勉強を続けています。アリゾナ州の新移民法成立のニュースを聴いたときに、まず脳裏を横切ったことは、連邦公民権第7章を完全に無視した法案ではないかということでした。1964年に成立したこの連邦法は、60年代に入ってから、かのマーティン・ルーサー・キングJr.牧師らが中心となった公民権運動の末に連邦政府から勝ち取ったアメリカでの人種差別禁止令の根幹と礎とを形成する金字塔的な法律で、現在でももちろん数々の連邦雇用法の中でも最も影響力を持つ法律です。連邦政府として恐らく最も危惧するのは、州単位でこのようなアメリカの根幹をになう法律を中抜きするような州法が今後とも出てくることにあるのではないかと思われます。
 
アリゾナ州というところは、アメリカの西側にあっては、例外的にもともと保守勢力の非常に強い州で、共和党の強固な地盤があります。オバマと大統領選を戦ったマケイン上院議員の地元選挙区の州でもあります。それは、現役を引退してから、1年中真夏のような気候のよいこの地域に移り住む裕福な高齢者が多く、また高齢者向けの大変優れた医療機関が揃っているというのも、この州の特徴となっています。もちろん、州知事も筋金入りの共和党員で、今回の連邦地裁の指し止め判決に対してすでに控訴をすることを即座に言明しています。戦いは、今後法廷の場に移されて争われることとなり、連邦地裁の今回の判決も今後どうなるかはまったく予断を許さない状況です。
 
私の住むオレゴン州セーレム市の地元紙でも今回の連邦地裁の判断、そしてスーザン・ボルトン裁判官の下した法案施行指し止めを深く称えたコメントを前面に掲げていました。また、オレゴン州のテッド・クロンガスキー知事(民主党)も今回のアリゾナ州の新移民法には最初から反対であって、連邦地裁は正しい判決を下したと言うコメントを掲載していました。それでも全米規模で見てみると、アリゾナ州の新移民法を支持する層は57%、反対層は、37%(今年5月末でのCNNによる世論調査)ということで、賛成派が反対派をかなり上回っていることが分かります。
 
全米には、現在約1080万人の不法移民者がいるといわれています。オバマ政権は、医療保険改革法、金融改革法と大統領就任以来、矢継ぎ早に新しい重要法案の設立にこぎつけてきましたが、もうひとつの重要法案である移民改革法の関しては、まだこれから先(少なくとも早くて来年)の法案設立になりそうで、まだまだ試行錯誤が続くことが予想されます。しかし、現在に至るアメリカの社会システムは、1080万人いる不法移民の公式な統計には決して出てこない労働の対価によって成り立っているところがあるのは、偽らざる事実です。それを完全に無視した議論は非現実的で不毛な結論しか出てこないだろうと思います。
 
今後最も危惧されるアメリカ国内における人種間での断絶や人種差別の助長は決して許してはならないことです。その意味で、移民法改革に関しても連邦としての強いリーダーシップを大統領をはじめ、司法に関わる人々は、肝に銘じて取り組んでいかなければなりません。今回のスーザン・ボルトン裁判官の指し止め判断は、記憶に長く留めておきたい英断だったのではないかと感じます。
 
 
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