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先週は、弊社主催の人事セミナーがシリコンバレーであったものですから、朝早くから始まるセミナーに備えて前日にポートランドからサンノゼ空港に飛び、そこからレンタカーを借りて、シリコンバレーのほぼ真ん中に位置するパロアルトにある私の妻の弟の家に泊まらせてもらいました。義弟は、以前にもこのブログでご紹介したことがありますように、マウンテンビューにありますNASAの基地の中でコンピュータ・ネットワークのエンジニアをしている、きわめて頭脳明晰で生まれながらにしてエンジニアのような人間です。その彼の家に泊まる大きな楽しみは、いまNASAで何が起こっているのかという最新ニュースを聞くことが出来るということに尽きます。
 
ご存知であるかも知れませんが、この415日にオバマ大統領がフロリダのケネディ宇宙センターで発表した新たな宇宙政策発表で、2030年代半ばまでに火星までの有人飛行実現を目標にするという大胆な演説を行ったことは記憶にまだ新しいところではないでしょうか。義弟によると、オバマ大統領のこの新宇宙政策発表を機にして、すでにNASAの中では、火星への有人飛行プロジェクトチームが立ち上がったということです。その代わり、月に人を送り込む新たな探査計画(Constellation計画)は、お蔵入りすることになり、このConstellation計画に参画することが決まっていた義弟は、急きょ、火星有人飛行計画の方に鞍替えになったばかりだといって、残念そうな表情を見せていました。
 
傍目から考えれば、月から火星に計画が大いに飛躍したわけだから、これは生粋のエンジニアとして、1960年代初期に始まったときのアポロ計画以来の心高まり、胸躍るようなプロジェクトになるだろうから、NASAで働くエンジニア冥利のビッグチャンス到来かと思いきや、NASA内部の空気は、どうもまったくそうではないのだと云うのです。それは、オバマ大統領は何も気まぐれや思いつきで火星有人飛行を発表したのではないにしても、現時点で存在するテクノロジーでは、火星に人を送り込むことは仮に出来たにしても、火星から地球に無事戻ってこれるというテクノロジーは、まったく存在しないのだという点で、NASAの空気は、完全に冷めた状態だと云うのです。
 
それは、火星には、地球に匹敵するような大気と重力とが存在しているので、一旦火星に着陸したロケットが、火星表面から離陸を行って、火星の重力を超えて、大気圏外まで到達できるというテクノロジーの実現は、現段階ではまったく見通しも何も立っていないと云うのです。これでは、もし仮に火星まで到達できるような強力なエンジンを持つロケットの開発(これは何とか実現可能なのだそうです)が2030年までに出来たにしても、火星までの有人飛行は、片道切符になってしまうというわけです。いくらアメリカの大統領であっても人間を片道切符だけでロケットを宇宙に打ち上げるような有人飛行は、許可などできるわけがないのです。
 
2030年まであと20年あるではないかと素人の口からは言い出したくなるわけですが、これから20年程度の歳月だけで何とかなるような類の問題ではないというのが、NASA内部の科学者の一致した見解だということです。現在実現出来るメドがまったく立っていない計画を大統領の口から発表されたことに関して、すでに発足だけはしている火星有人飛行プロジェクトチームには、重い空気が漂っているのだそうです。この火星有人飛行計画には、すでに60億ドル(約5,600億円)の追加予算の投入が決められていて、月までの距離を越えて飛ぶことの出来るロケットの設計開発に当面着手し、2015年以降に実際に建造を始めるという青写真がほぼ出来上がっているといいます。
 
確かにこの計画が発表されたおかげで、今年をもって引退が決まっているスペースシャトルのあとに、これといって大きな目玉となる計画がなかったアメリカの宇宙政策の中では、関連する航空宇宙産業界では、もろ手を挙げて大統領のスピーチを大歓迎する意向が伝えられていますが、実現できそうにない計画に多大の税金を使い込むことに対しても義弟をはじめとしてNASA関係者は、懸念を払拭できないでいるというのです。義弟によると、ブッシュ政権のときに計画が大筋で決まっていた有人月探査計画であるConstellation計画には、それほど多額のお金を使わないでも達成が見込まれるいくつかの重要なテクノロジーのベンチマークがあったのだそうです。
 
そのひとつが、義弟が現在まで取り組んでいたワイヤレス環境で、ロケットや宇宙船の異常を感知させるシステムで、宇宙空間の中でも耐えられるワイヤレス通信のプロトコルの開発が彼の使命であったといいます。現段階では、無数のセンサーがワイヤで接続された状態でロケット内部の温度や圧力、エアの状態など様々な数値を監視をしています。しかし、ワイヤーはときには切れたり、接続不良を起こしたりすることがありますし、ワイヤーの重さだけでも結構な重量になっているといいます。ワイヤレスであれば、それらのことを気にする必要は一切なくなります。これはかなり実現可能なこれからのテクノロジーで、その実現のためには、それほど多くの予算は必要ではないということです。もちろん、火星有人飛行計画に移ってもこれらワイヤレス環境の開発ミッションは継続するはずだとして、義弟は一縷の望みを託しています。それにしてもNASAはオバマ大統領によって、ミッション・インポッシブル並みの大変なチャレンジを抱え込んでしまったとうことだけは間違いないようです。
 
 
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