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皆様、「ヤマアラシのジレンマ」という言葉をお聞きになったことがありますか? これは、もともとはドイツの哲学者ショーペンハウエルが自著の中で寓話として用いた比喩が始まりでした。 その後にこの寓話を引用して、精神分析の考察としてのレベルにまで引用して使ったのが、かのフロイトでした。 しかし、「ヤマアラシのジレンマ」という名前を実際に名付けたのは、どうもフロイト自身ではなく、アメリカの精神分析医であったL. べラック博士という人であったようです。 (べラック博士の自著に「ヤマアラシのジレンマ」があり、日本語にも翻訳されています。)

さすがにその辺のネーミングは、アメリカ人の大変得意とするところであり、べラック博士が名付けたこのネーミングによって、「ヤマアラシのジレンマ」はいまや世界的にも市民権を得たように思われます。もうほとんどの皆様は、このヤマアラシのジレンマについては十分ご存知であるはずだとは思うのですが、簡単におさらいをしてみますと、以下のような話になります。

「ある冬の寒い晩に、二匹のヤマアラシの夫婦が暖を取ろうとしてお互いが近づいたところ、双方が持つ鋭利な棘で相手の体を傷つけてしまいました。 そこで、相手を傷つけないようにと距離を置いてみたところ、今度は、お互いが寒くて仕方がありませんでした。 そのようなことを何回も繰り返すうちにようやく、程よい距離で、お互いの体を傷つけることもなく、しかもある程度、暖が取れるようなところに落ち着くことができたのでありました。」(めでたし、めでたし!)

こういうお話です。 これは、夫婦の間だけでなく、親子兄弟や職場ならびに学校などでの人間関係や友人関係、そして男女関係一般などに幅広く適用できる寓話で、人間同士の利害関係とそれにまつわる感情心理が寓話の比喩を用いることによって大変分かりやすく理解できるようになっています。 恐らく、元祖ショーペンハウエルも、自分が使った寓話がこのような精神分析理論での引用にまで使われて世界中で流布することになるとは思ってもみなかったことでしょう。

ひるがえって、現代では、この寓話に出てくるヤマアラシの夫婦のように、いくつかの試行錯誤を繰り返しながら、程よいお互いの距離を努力を重ねながら見つけていくという、骨の折れる作業をないがしろにしている嫌いがあるのではないかと思います。 相手を傷つけてしまっても、試行錯誤をやめなかったヤマアラシの夫婦は、とても立派だと思います。 そういった忍耐というか、辛抱できる人たちが現代では、著しく減ってきてしまっている、そう思うことが日常の中でたびたび起こるわけです。

私は、ヤマアラシのジレンマという言葉は、新入社員研修で必読書であった本の中(本のタイトルは忘れてしまいました)で初めて知りました。今から、30年近くも前になります。 それ以来、ヤマアラシという動物を実際に自分のこの目で見たいと思うようになりました。 もちろん、動物図鑑の中にある写真で見たことはありましたが、実物を初めて目にしたのは、アメリカに来て4、5年ほどたったある夏の日に家族とともに休暇で訪れた、オレゴン州ベンド市郊外にある、High Desert Museum という博物館兼動物園の中でありました。

セントラル・オレゴンという地域にある ”High Desert” と呼ばれる乾燥した高原地帯の山の中では、ヤマアラシが実際に生息していることを知りました。人間にそのような心理学的な比喩として、自分たちのことが使われていることを知ったら、ヤマアラシはさぞかしビックリでしょうね。 ヤマアラシのことは、英語では、”Porcupine” といいますが、日本語で付けられた名前よりは、そしてそのするどい棘のある容姿の割にはずっと可愛らしい響きの持った英語での名称になっています。 ヤマアラシのジレンマ、ときどき気に留めておきながら、毎日の生活や仕事の中で思いをめぐらしてみるのも悪くないですね。



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