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随分前の話になるのですが、まあこういった回想録もたまにはよいのかなと思い、今回ご紹介させていただきます。多分今から10年近く前に遡るかと思いますが、当時、日本製半導体製造装置販売のために、オハイオ州のシンシナティから北へ1時間ほどいったところにある、とある小さな田舎町にある、小さな半導体メーカーに何度かポートランドから通っていたことがあります。

そのメーカーは、オハイオ州のウィルミングトンという田舎町にあり、周りはトウモロコシ畑が延々と続く農村の町そのものの真ん中にありました。半導体工場があるといわれても、近くに巨大なサイロ形をした穀物貯蔵庫(カントリーエレベーター)があって、まるでチーズやバターを製造する乳製品工場のようなつくりで、これが半導体工場(?)と最初はこの目を疑うほどでありました。

このオハイオ州ウィルミングトンの人口は、いまだに知りませんが、とにかくこの町にはホテルもなく、シンシナティから1時間ほどかけて車を走らせて行くぐらいしか手がないように思えました。しかし、以前三菱の半導体工場で一緒に働いていた、アメリカ人エンジニアが、このウィルミングトンにある半導体メーカーに転職したので、彼からこの町には、ホテルはないが、1軒だけB&B (Bed & Breakfast) があるから、そこに泊まったらよいということで、予約を取ってくれました。

道に迷いながらも夕食を済ませた後、もうあたりもほぼ真っ暗になりかけた頃にようやくこのB&Bまで日本からお越しになっていた装置メーカーの海外営業部長さんとともに、何とかたどり着くことができました。アメリカにある大方のB&Bは、古いお屋敷風の家が多いのですが、このウィルミングトンにあるB&Bもご他聞にもれず、100年以上昔に建てられた、荘厳な雰囲気のするビクトリア風のお屋敷でした。今でもその家の中に入ったときのひんやりとした冷たい空気の感触が忘れられないほどです。

家の持ち主は、40歳半ばぐらいの上品な感じのスレンダーな女性でした。彼女が出迎えてくれて、ひととおりお屋敷の中を案内してくれて、彼女はその後、すぐに自分の家に戻られました。また明日の朝7時ごろに来て、朝食の支度をしますからということでした。広い家には、私と日本の営業部長の2人だけが残されました。ポートランドから出てきた長旅の疲れで、すぐに眠たくなったので、夜の9時過ぎには、もうベッドに入っていたのではないかと思います。

私の部屋は2階で、ちょうどキッチンの上に部屋がありました。ベッドに入った途端、すぐに白川夜船で、こん睡状態です。が、何時かはわかりませんが、キッチンの横にあるドアが開いて、バタンとしまる大きなドアの音に目が覚めました。すると、誰かが冷蔵庫のドアを開け、食器棚から食器を取り出す音や引き出しを開ける音、包丁で野菜を刻む音などが続けて私の耳に飛び込んできました。しかもそれらの音は、とても楽しそうで、料理をする喜びに溢れるような軽快な物音でした。

私はいったい何が始まるのだろうかと思い、体を起そうとするのですが、まるで自分の体は金縛り状態にあったようで、まるで身動きのひとつも取れません。これにはさすがに不安と恐怖感に襲われましたが、もう次の瞬間には意識がなく、目を覚ますと朝を迎えておりました。朝8時に食事を取りに下のキッチンに降りていきますと、昨日会ったオーナーの女性の方が朝食の用意をすっかりしてくれており、私たちを笑顔出で迎えてくれました。

昨夜のことを彼女に話してみようかと思ったのですが、営業部長の人が別の話を持ち出したので、話しそびれてしまいました。後で、昨夜の体験を営業部長さんに話すと、そんな音はまったくしなかったと言うではないですか。彼の部屋は1階でしかもキッチンのすぐ隣にあったので、私の部屋で聞こえて、彼の部屋で聞こえないはずはないのですが!

朝9時に半導体メーカーに出向き、昔一緒に仕事をしていた懇意のエンジニアに昨夜のことをこっそり話してみましたところ、話はしなかったがあそこのB&Bには幽霊が出るということを真顔で私に言うではありませんか。やはりあれは幽霊だったのか!それにしても真夜中にキッチンに現れて、楽しそうに料理を作る幽霊であれば、誰も憎んだりはできないなと思いました。でも何らかの理由で成仏していないわけですから、日本だったら神主さんを呼んでお払いをするなどやるのでしょうけど、アメリカはそんなことは多分しないのでしょうね。そう考えますと、アメリカの古いお屋敷には幽霊がいっぱい住んでいるように思えます。B&Bに泊まることは、アメリカで幽霊体験できる格好の場所なのかもしれないですね。



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